絵本作家のストーリー
絵本を作る人としてまず思い浮かぶのが絵本作家。
今回は「絵本のまち板橋」ロゴの制作者であり、リノリウム版画で絵本を制作している、絵本作家のむらかみ ひとみさんにお話を聞きました。
【紹介】むらかみ ひとみ
絵本作家・版画家、イラストレーター。板橋区の「絵本のまち板橋」 ロゴ制作者。
イタリア・フィレンツェの版画工房で技術を学ぶ。2003,2005,2006年度ボローニャ国際絵本原画展に入選。絵本や挿画、実用書を手がけるほか、板橋区では、こども向けのワークショップや板橋区立美術館の「ボローニャ展」に連動して開催する「ボローニャ絵本さんぽ2022」に参加している。
絵本づくりに心奪われて
小さい頃から絵本が好きで、大人になっても読んでいるような、絵本好きの読者でした。高校卒業後、空間デザインに興味があり、専門学校でディスプレイ学科を専攻しました。1年生の授業でたまたま絵本を作る課題があり、そのときはじめて絵本をつくりました。つくってみたら本当に楽しくて、心を奪われてしまい、私がやりたいのはこれだ!と感じました。これまで読んで楽しんでいた絵本ですが、つくる楽しさに気づいた瞬間でした。
そのあと、絵本作家になるためにイタリアのフィレンツェへ留学、版画工房で版画を学び、日本に戻ってから本格的に絵本制作を始めました。
リノリウム版画と絵本
絵本は主に、リノカット(リノリウム版画)で制作しています。リノリウム版画は、木版画と似た凸版の技法です。リノリウムという木粉や亜麻仁油などを混ぜてつくられた、床材に使用される素材を版として使います。彫刻刀で彫って版をつくり、インクを塗り、水で湿らせた紙を重ね、プレス機で刷ります。リノリウムは木のような木目がなく、べったり色をのせることができます。
私は、リノリウム版画の彫り心地や、線がなめらかだけどシャープなところ、インクをのせたベタ面、プレス機で圧力をかけて刷るところが好きなので、この技法で絵本制作を行っています。
版画は、自分の手で彫って、刷って…と工程が多く、大変で時間のかかる作業ですが、その手間を楽しみながら日々制作しています。
版画ならではの線や面、ズレや重なりも含めて、私らしい作品がつくれたらいいなと思っています。
版画制作は真剣勝負
版画は、彫り始めたら後戻りも修正もできないため、下絵を何回も描き直してしっかり固めます。版画を彫る前までは色々と考えますが、彫り始めたら版画のことだけを考え、真摯に版画に向き合って彫ることだけに集中します。まさに、真剣勝負です。
そんな中でも、ちょっとしたことにチャレンジするようにしていて、技法や画材などつくり方を変えてみたりしています。自分にしかわからないことであっても試行錯誤しながら、それ自体を楽しんでいます。
作品のアイデア
日常生活の中で、やわらかなイメージが浮かびます。近くの里山を散歩していたり、動物園で動物のしぐさや行動を見て面白いと感じたり、ドキュメンタリー映画を観たり…自然やいきものから制作のヒントをもらうことが多いです。
このヒントは思い浮かんだときにメモに書き溜めておいています。ただ、そのアイデアが絵本に直接つながるわけではなくて、一枚の絵になったりイメージになったりするので、それが集まったときに一つの絵本になっていきます。
また、美術館でほかの方の作品をみたり、昔の映画を観たりなど、刺激を受けたときに制作の意欲が湧きます。
だれかに届けたい、届けばいいな
お話や絵は、だれに、どこに届くかわかりませんが、制作の先を想像しながら、“だれかに届けたい、届けばいいな”と思って制作しています。
身近な人や、ワークショップ、作品展で出会ったちいさなお友達を思い浮かべたり、自分の中にいる、ちいさな自分にも語りかけたり。
また、制作する絵本には、どうぶつやいきものが出てくるのですが、おはなしを作るときは自分の中で、その子たちと話し合っています。愛を持って、その子たちのいいところを描きたいなと思いながら制作しています。
絵本制作の良さ
版画を刷ったときに楽しさを感じます。彫った版から線や面がどんと飛び出たように現れるので、何度刷ってもワクワクします。
また、絵本を読んでくれた子どもたちや、版画作品を手に取ってくださった方からの声はいちばん励みになります。原画展の芳名帳のコメントや、いただいたお手紙やメッセージは、宝物でありお守りです。
完成した絵本と出会うとき
書店や図書館で自分の絵本や、装画(表紙)を描かせていただいた本に出会うと、大切な友達に再会したような感覚になります。そんな時は、がんばってね!読んでもらうんだよ!と応援したくなりますし、自分の手から生まれたものがいろいろな方の力を借りて世に出て、だれかに出会い、新しい人生を歩んでいるのだと思うとうれしくなります。
オススメの絵本
「ちいさなヒッポ」
作:マーシャ・ブラウン
訳:内田 莉莎子
出版社:偕成社
オススメの理由:力強くて、あたたかくて、やさしくて、美しい。どうぶつがいきいきと表現されていて本当に素敵な版画絵本です。本を開いて見返しから美しい版画で始まり、どの見開きも見ごたえのある版画で、色も大胆さも繊細なところも、版画の味わいが詰まっています。