翻訳家のストーリー

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外国語絵本の日本人読者第一号である翻訳家。

今回は「第28回ボローニャ・ブックフェアinいたばし」「板橋区立中央図書館オープニングイベント」などの講演会でも講師を務めていただいている、翻訳家の福本友美子さんにお話を聞きました。

【紹介】福本 友美子

翻訳家。主に児童図書の翻訳、研究を行っている。
その他、全国各地での絵本に関する講演会を行っており、「第28回ボローニャ・ブックフェアinいたばし」「板橋区立中央図書館オープニングイベント」でも講演会の講師を務めた。

代表作品
<おさるのジョージ>シリーズ(岩波書店)
「としょかんライオン」(岩崎書店)
「すうがくでせかいをみるの」(ほるぷ出版)
「おやすみ、はたらくくるまたち」(ひさかたチャイルド)

など、翻訳作品は計250冊以上。

福本友美子

活動内容について

英語で書かれた絵本を日本語に翻訳しています。主にイギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリアなどの英語圏で出版された絵本です。翻訳する絵本は、出版社から依頼されることもありますが、海外の図書館や書店へ足を運び、これはぜひ日本の子どもたちに読んでほしいと思った絵本は、自ら出版社に持ち込むこともあります。

また、全国各地の図書館や、読書推進団体などにお招きいただいて、絵本に関する講演会を行っています。

これまでにたくさんの絵本を読んでいるので、おすすめの絵本のリストをつくる企画に携わったり、絵本の歴史について、雑誌などに記事を書いたりもしています。

翻訳家になったきっかけ

もともと公共図書館に勤務し、主に児童サービスの担当として、子どもたちに絵本を読んだり、児童書の選書をしたりしていました。当時、私は小さい図書館に勤務していたので、図書館に来る子どもたち一人ひとりとコミュニケーションをとり、それぞれの子にあった絵本を選んで貸し出しをしていました。

その後、子育てのために図書館の仕事を退職し、家でできる仕事として子どもの本の評論や研究を続けていました。特に英米の子どもの本が好きで、たくさん読んでいるうちに自分でも翻訳の仕事をしたいと思うようになりました。

図書館時代に子どもたちがどのように本を読むのかを見てきた経験が、今でも翻訳の仕事に大いに役立っています。

耳で聞いて心地よく、声に出して読みやすく

その絵本がどんな年齢層の子どもたちに一番ふさわしいのかということを考え、その年齢層にあった語彙や言葉遣い、言い回しを使って訳しています。

まだ字が読めない子どもたちは絵本を誰かに読んでもらって、おはなしを耳で聞き、目では絵をじっくりと見ながら、おはなしの世界に入っていきます。そのため、「耳で聞いて心地よく」ということを一番に意識しています。それは同時に、読み手にとっては「声に出して読みやすく」ということなので、この二点を大切に考えて翻訳をしています。

また、翻訳者は日本語でまだ誰も読んだことのない絵本を読む、「第一の読者」だと考えているので、その絵本の世界観をできるだけ汲み取って伝えるように心がけています。

翻訳する際のポイント

日本語と英語では語順も違いますし、英語では韻を踏んでいるものも、日本語にそのまま訳してしまうと韻を踏まないので、そういった点で難しいところはあります。そんなときは、まず原書を声に出して何度も読んでみます。そうすることで絵本全体の雰囲気をつかむことができ、日本語の訳の雰囲気も見えてきます。

最近では、絵本が海外で出版される前に、データで翻訳の依頼をされることが多くなりましたが、絵本の大きさや、めくったときの間合い、次のページへのつながり具合はデータだけではわかりにくいため、原書がない場合は、データを紙にプリントして綴じ、実際の絵本のような形にしてから翻訳をしています。

翻訳した絵本たち

絵本を通して初めてのことばに出会う

原書を見て日本語に訳していると、その絵本の対象年齢の子どもにとっては難しい言葉もあります。その場合、わかりやすい簡単な単語に訳すこともありますが、私自身は、絵本の中で初めて出会う言葉があっても良いと思うので、絵本の絵を見てその言葉が何を指しているのかがわかる場合には、あえて少し難しい言葉を残すこともあります。

絵本を読む、聞くことで子どもたちが知らなかった言葉を習得できたら良いなと思いながら、使う言葉を考えて訳しています。

わたし?ぼく?おれ?…

英語では一人称はすべて「I」ですが、日本語では年齢、性別、時代、育った環境などによって一人称が異なります。そのため、登場人物によってどんな話し方をさせるか、工夫が必要です。子どもの本では、動物、花や木、月や太陽、机やいすが話すこともあるため、想像力が大いに必要です。

また、日本語は主語が省略されることが多く、例えば多くの人は「私はおなかがすいた」ではなく、「おなかがすいた」と言いますよね。このように、英語から日本語へ訳すときは、一人称の呼び方や、主語をつけるかつけないかなどを考えながら進めていきます。

「すうがくでせかいをみるの」という絵本は、原書では主語が「I」でしたが、主人公の女の子の絵を見ると自分のことを「わたし」と呼ぶ感じがしなかったため、主語を訳さずにすべてのセリフを訳しました。そうすることで、このくらいの年代の女の子のつぶやきの感じが出たのではないかと思っています。

うれしかった瞬間

先日、中央図書館に行ったとき、小学校1年生くらいの男の子が、児童室のソファーに座り、私の翻訳した絵本を熱心に読んでいるのを見かけました。翻訳者としては、携わった本を読者が読んでいるのを直接目にする機会はほとんどないため、男の子がわき目もふらずページをめくっておはなしの世界に入り込んでいる様子を見て、とてもうれしかったですし、やりがいを感じました。

オススメの絵本

「ないしょのおともだち」

文:ビバリー・ドノフリオ
絵:バーバラ・マクリントック
訳:福本 友美子
出版社:ほるぷ出版

大きな家に住んでいる女の子と、その家の隅に住んでいるネズミの女の子が、ふとしたきっかけでお互いの存在を知り、親たちに内緒でこっそりお友達になるというお話です。

楽しいお話ですが、この本のいちばんの魅力は、細かく描きこまれた絵です。1ページ1ページの絵をじっくり隅々まで見ていくと、文章に書いていないことまで気がつき、おはなしの世界がもっともっと膨らみます。大人は文章だけを読んでさっさと次のページをめくりがちですが、この絵本は、絵をゆっくり見ていろいろな発見を楽しんでいただきたいと思います。

この絵本の絵を描いたバーバラ・マクリントックは、ほかにも多くの絵本を制作しており、私はそのほとんどを訳していますが、どれも細かく描かれた絵がとても魅力的なのでおすすめです。

福本さん

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