印刷・製本のストーリー2
板橋区内に数多くの絵本の印刷・製本を手掛けている会社があることをご存知でしょうか。
今回は、板橋区内にある印刷会社、惠友印刷株式会社の萬上社長、大澤常務、田村工場長に話を聞きました。
【紹介】惠友印刷株式会社
沿革
1999年 惠友印刷株式会社設立
2002年 東京・板橋区大原町に工場を設置
2018年 上製本システムを導入 ハードカバーの絵本内製化を推進
2022年 インクジェットデジタル印刷機を導入 高品位・小ロット案件対応を強化
組版/デザインから印刷、加工・製本まで自社で一貫生産する体制を持ち、様々な産業・セクターに向けて紙と紙プラスアルファの媒体表現の可能性を追求・提案しています。
また、ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアのコンクール入賞作品や、いたばし国際絵本翻訳大賞の印刷・製本を毎年、手掛けています。
絵本事業を始めたきっかけ
絵本事業を始めるまでは、主に児童や学生のための学術書・学習参考書の受託印刷を行っていました。教育コンテンツを主軸に、未就学児や障がい者、高齢者や世界へも繋がっていく事業を構想していたところ、2015年、板橋区・ボローニャ友好交流都市協定の10周年を機に、商工会議所や中小企業診断士の方から絵本事業のお声掛けをいただきました。
絵本事業を始めてからは、若手作家の登竜門として世界で注目されているイタリアのボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアに会長が毎年赴き、絵本作家さんや翻訳家さんとのつながりを作り、徐々に人脈を広げていきました。創業の地である東京・飯田橋には、印刷文化・情報発信基地として絵本カフェ「ボローニャ」もオープンしました。
惠友印刷はそういったイベント・拠点に集まる若手絵本作家や、その「卵」の発掘・育成という観点から、現地で若い絵本作家やイラストレーターと直接版権交渉し、絵本の出版企画を立てています。
絵本は家族の思い出アルバム
“ある夫婦が娘に1冊の絵本を読み聞かせました。数十年後その娘が孫を生んで、自分が幼い頃、親に読み聞かせてもらった同じ絵本をその子に読み聞かせる。
そうした中で、娘が小さかった頃に思いを馳せたり、孫に読み聞かせて新たな思い出や体験が作られたり。“
絵本はそのとき読んで終わりではなく、思い出を繋ぎ、思いを紡いでいく、家族のアルバムのようなものだと思っています。
印刷の色へのこだわり
カラーイメージの共有
惠友印刷は作品や作家と真摯に向き合い、色の再現性にこだわっています。
これまで業界は、制作は制作部門で、印刷は印刷部門で、というように工程の分業化が行き過ぎました。それだと、目指す到達点や最終成果物のイメージを関係者全員で共有できず、うまく作家さんの要望に応えられないことになります。
そこで、制作部門、印刷部門、そして編集者や作家さんも交え関係者全員で打合せを行い、どんな色を出したいのかなど、イメージを共有・協創して進めるようにしています。生産側の責任はプリンティング・ディレクターが負います。この態勢で依頼者のニーズを的確に捉え、私ども側からも提案し、より一層満足していただける作品を制作することが可能となっています。
こうしてイメージの色を出せるようになったことで、色調に厳しい化粧品関係や料理のレシピ本のようなフルカラーの案件も増えてきています。
踊るような音符を! 匂い立つような書を! 依頼者の要望に応えるために
また、カラー印刷だけでなく、モノクロ印刷でも依頼者からの熱い要望はあります。
楽譜印刷の依頼で、“踊るような音符”を刷ってほしいという要望がありました。その要望に対しては、インキと湿し水の調節を何度も行い、水を絞って音符の記号がくっきり出るようにこだわりました。完成後、制作したものを依頼者の方に見て頂き、「いいね!音符、踊っているね!」と言っていただけたときは、とてもうれしかったです。また、墨刷りにこだわりの強い国文学や書道の出版社からは、「匂い立つような刷り」を求められます。数値で測れる墨の濃度・濃淡以上の感性的な何かを、エッジの効いた材料も駆使し、現場で生み出す使命感で臨んでいます。
唇の渇きで湿度を量り、指先の感覚で紙厚を察する
近年では、デジタル技術が発達し、惠友印刷でも最新機器の導入を急速に進めています。
しかし、デジタルだけでは、ある程度の精度を出すことはできても、私どもには不足です。最終的には人間が印刷環境や材料・原稿の条件、または仕様など全体のバランスを見て判断しなければ、よい作品は生まれません。
そのため、惠友印刷で働く社員一人ひとりが練度の高い、知覚と感覚を研ぎ澄ませた「職人」であり、「匠」です。
そのような職人の技術は、デジタル化が進む中でも一子相伝の閉ざされた世界とは無縁で、常に開かれ、皆にシェアされ、そして継承されていくものと考えます。会社としての力量を、より一層高みへと押し上げていきたい。また、ものづくりや教育の現場において、国連の掲げるSDGs(持続可能な開発目標)に高いレベルで資する会社を目指しています。
絵本をもっと気軽に、身近に作れるように
一般の方が絵本を作りたいと思っても、「実際にはどこにお願いしたらいいのか」、「素人だし、印刷会社や出版社にお願いするのは敷居が高すぎて難しい…」などと思う方が多いと思います。
惠友印刷ではそうしたイメージを払拭し、気軽に、身近に絵本を作れるような環境づくりを進めています。絵本にご関心のある方はぜひ、気軽にご相談ください。
オススメの絵本
「Moon Cheese」
作: MiyaUni
英訳: Graham Meredith
出版社: 山烋
オススメの理由:ちぎり絵「ねずみくんとおおきなチーズ」で2016年ボローニャ国際絵本原画展入選。日本人作家ユニット、大藤めぐみ・鈴木雄大による絵本処女作で、出版社・山烋としても絵本初出版。原作の風合いを損なわずに平版上で凹凸感を表現すべく、高精細マルチアングルスキャナーを用いて惠友印刷が製版・印刷。ほっこりしたストーリーに、皆が優しい気持ちになれる一冊です。