北野小学校(令和8年7月10日訪問)
教育長訪問記
7月10日(金曜日)に北野小学校を訪問しました(通算134回目の訪問記)。この日は「MIRAI SCHOOL いたばし 授業革新検討委員会」の第2回研究会が本校で開催されたため訪問しました。この委員会は、本区で力を入れている授業革新、特に子どもを真ん中に据えた教育に資する「授業スタンダードS」の実践を共同研究し、その成果を区内の全校園に広めていく取り組みです。SはSelf(自己)とSelect(選択)のSで、子どもが授業の中で自己選択・自己決定・自己調整することを通して、自らが学びの主人公であることを実践する授業です。
今回は、本校の宇田川主幹教諭の授業の見学を軸とした研究会として企画されたものです。まずは、提案授業として6年生の社会科の授業「武士の政治が始まる」を、参加された先生方と一緒に見学することからスタートです。見学者が約40人で教室に入りきれないため、体育館に机と椅子を持ち込んで行いました。
「武士の政治が始まる」の単元は全7時間の構成で、本時は第5時です。前時までに平清盛、源頼朝、源義経のことは学んでいます。そこで、本時の冒頭で先生が発した問いは「武士の世の中の始まりで、自分が一番重要だと思う人は、平清盛、源頼朝、源義経の3人の誰か」でした。児童は自分が一番重要だと思う人物について調べ、問いに対する自分の考えを書いて、友達と交流するという授業です。「今日の授業のポイント」として「しっかりとした理由をもって、この人!って説明できることが大事!!」と書かれています。
児童は3人の武士のうち誰を選ぶか、何を使って調べるかを選択して取り組むことになります。誰を調べるのかは偏らずに分かれていましたし、調べる素材は資料集、一人一台端末、教科書など色々です。先生が作成した動画もありました。上の写真のように、充実した掲示物もそろっています。学習指導案によると、平清盛が政治を行う立場にならなければ武士は力をつけていない、源頼朝が挙兵しなければ平氏と戦っていない、源義経の活躍がなければ源氏は平氏に勝つことができなかったし鎌倉幕府を開くことができない、などを総合的に考える必要が出てきます。
このように、児童全員が全く同じことに取り組むのではなく、選択して取り組むことで、主体的な学びが行われていきますが、そうなると、その後の情報交流がとても重要になります。友達が調べたことを知ることで、さらに知識・理解が深まるからです。この段階での宇田川先生の工夫は、同じ武士を選んだ児童に同じ色のはっぴを着てもらって、動き回って情報交流するというものです。平清盛は赤、源頼朝は青、源義経は緑のはっぴです。
上の写真のように、最初は同じ色同士で交流し、次に違う色同士で交流するという2段階になっています。児童はそれぞれの色のはっぴを着て、動き回って情報交流していました。協働的な学びです。
先生の周りにも児童が集まってきました。理由を聞いてほしい児童たちです。活気あふれる様子は主体的・対話的な学びが実践されている証拠です。最後の振り返りの時間では、本時を振り返ってまとめを一人一台端末に入力し、発表しました。友達の考えを聞いて自分が選んだ武士ではない武士のことをさらに詳しく知ることができたとか、自分と同じ武士を選んだ人からも学べたといった感想がありました。児童が他の人とは異なる武士、異なる方法で調べたからこそ、多様な考え方や意見を踏まえた重層的な理解が得られたのではないかと思います。
授業後には研究協議会が行われました。宇田川先生の自評のあと、参加者は5~6人に分かれて本時の授業を振り返り、成果と課題等について協議を行いました。私は各班を回って先生方の意見を聞いてみましたが、工夫された授業だったことや、児童が生き生きと学んでいたことなど、授業の成果が沢山出されていました。一方で、授業準備の大変さや、児童に選択はさせていたが子どもに委ねる部分はそれほど多くなかったのではないか、という意見も出ていました。活発な意見が出されていて、とても有意義でした。
このような、先生方がお互いに授業を見合って切磋琢磨するというのは世界的に見るとそれほど多くなく、むしろ稀です。それゆえに日本の先生方の授業研究(Lesson Study)は世界の教育界では一目置かれているのです。日本の先生は全体的に見れば授業力の向上に熱心で、実際高いレベルをもっているのではないかと思います。国際的な学力調査で常に日本が上位にランクインしていることも頷けます。
指導・講評として白百合女子大学の中田正弘教授による「子どもたちの自己調整を促す学習環境デザインと教師の指導性の在り方について」と題した講話があり拝聴しました。本時の工夫された授業の成果と、一方で本区の目指す授業のあり方とは異なる点があるという課題の両面をお話しくださいました。的を射たお話にいつも感謝しております。
授業スタンダードSは、児童生徒が学びの主人公であるという趣旨のもと、主体的な学びを促すことが最も重要な点です。極端に言えば明治時代から続いてきた「教師が授業を統制し制御する」という価値観から、いかに脱却・転換するかが鍵となります。本時の授業は、調べる武士と調べる方法は児童に委ねられていましたが、それ以外はほとんど先生が統制・制御していました。先生による指示と発問の連続という従前のタイプの授業です。このスタイルですとこれまでの「板橋区授業スタンダード」とそれほど変わりません。中盤の自力解決と集団解決という場面も入っているからです。「全て同じ」という授業観からは一歩も二歩も前進していましたが、子どもに委ねる授業観までは到達していないのではないかと思いました。しかしながら、このような課題も把握できて、その意味で有意義な研究会となりました。というのも、授業スタンダードSに取り組む先生はどのような経過をたどって本質に近づくかという通過点を見せていただいたからです。今後の研究会の進展を期待しています。
(記・長沼豊教育長)
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