コラム「史跡公園実験室」第8回 文化財講座をアーカイブする(3)
板橋区では、国史跡「陸軍板橋火薬製造所跡」をテーマにした講座を毎年開催しています。これまで開いた講座の内容を振り返るコラム、今回は最終回です。
史跡を「地下から見る」
終戦直後、旧陸海軍や官公庁の指示によって、数多くの公文書が焼却されてしまったことは、よく知られています。当史跡に与えた影響も小さいものではなく、残っている建物の築年数が判明しなかったり、場合によってはどんな施設だったのかすらわからなかったりします。そこで私たちは、発掘調査を継続的に行い、そこで見つかった遺構や遺物を分析して、史跡にアプローチし続けています。
令和5年度の講座では、この発掘調査の成果を紹介する見学会を開催しました。実は史跡指定地からは、特殊で、多様な遺物が発掘されていることや、それらが文献資料からはわからない火薬製造所の姿を伝えていることに、多くの参加者のみなさんが驚いていました。
番外編:モニュメントから読み込む
板橋区教育委員会が主催する文化財講座は、主に史跡を取り扱う「近代化遺産」のほかに、「歴史」「民俗」「考古」というテーマを設け、毎年度各一回ずつ開催しています。令和5年度の「歴史」の講座「学芸員が語る!文化財最前線」では、近年板橋区の文化財に指定登録された3件を紹介しましたが、史跡とも関わりが深い「招魂之碑(明治35年陸軍板橋火薬製造所爆発事故)」について解説しました。
爆発事故の原因となったのは無煙火薬という、当時世界最新の火薬です。陸軍は明治17年にヨーロッパからもたらされたこの火薬を調査研究し、明治26年に板橋火薬製造所で大量生産を始めました。しかし当時安全性に大きな課題を抱えており、明治35年に10人が亡くなる爆発事故が起こりました。こうした無煙火薬を取り扱った職工たちが置かれた環境や地域社会の事故への反応など、事故を取り巻く背景についても説明しました。参加者からはたくさんの人が働いていたことに驚く感想が聞かれました。
この講座では、区の文化財になった仏画と古民家についても紹介し、板橋区のさまざまな歴史を紹介しました。明治35年に発生した爆発事故の慰霊碑は、工場災害の記憶ではなく、地域の歴史を表す文化財です。
見えてきたのは「多面的な姿」
このコラムでは、平成30年度から開催してきた史跡に関する文化財講座を3回に分けて紹介しました。
これまでの講座内容を振り返ると、焦点を当ててきたのは「陸軍板橋火薬製造所跡」という、紛れもなくひとつの史跡ですが、そこから見えてくる歴史は決してひとつではないことに気が付きます。文化財建築がもつ迫力、周辺や地下にも残る遺構、地域の特性、そしてこの場所にいたはずのたくさんの人たちの存在など、この史跡の見どころ、語りどころはたくさんあります。史跡は多面的な姿をしているのです。
そこで史跡がもつ歴史と文化をわかりやすく伝えるために、この講座シリーズは毎回異なる切り口、テーマで企画してきました。史跡にクローズアップしたり、俯瞰してみたりしながら、どうやったらわかりやすくお伝えできるのか、学芸員は工夫を続けています。
板橋区教育委員会は、今後も史跡「陸軍板橋火薬製造所跡」をテーマにした文化財講座を毎年度開催していく予定です。この史跡がもつ新しい表情を探し、多面性を伝え続けたいと思います。
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