こうぶんしょ館電子展示室63号「櫻井德太郎文庫資料の紹介」

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ページ番号1009244  更新日 2020年1月25日

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こうぶんしょ館電子展示室63号

「櫻井德太郎資料の紹介」

板橋区公文書館に付設された櫻井德太郎文庫は、長年板橋にお住まいになり、日本民俗学の発展に貢献された櫻井德太郎先生からの寄贈図書によって構成されており、歴史・民俗・宗教をはじめとした多くの貴重な学術書が大切に保存されています。
自身でも大変多くの著作を残された櫻井先生ですが、なかでも博士論文として書かれた『講集団成立過程の研究』は有名です。本書では300種もの「講」がとりあげられています。例えば伊勢講は、寄付を集め、年1回、講のメンバーが交替で何人か伊勢参りをしたものであり、庚申講は60日ごとに庚申塚で集まりをもったものです。
櫻井先生は全国の講について、実地調査を行い、講集団の変遷過程に一定のパターンがあることを発見しました。そしてそれを、地域社会における外来信仰の発展と衰退の動態モデルとして類型化し、日本社会の構造的特質や日本民族の集団結集の法則、さらにそれが民族の歴史的発展の上に及ぼした影響などを摑むことの可能性を追求したのです。
以下、蔵書のなかからいくつか、印象的な文章を引用しながら紹介いたします。

写真5
著作「講集団成立過程の研究」

櫻井德太郎著『昔話の民俗学』(平成8年文庫版発行)

改版された文庫本としての出版は1996年5月ですが、初刊は1950年代。櫻井先生が30歳代のころに著されたものです。民間文学としての昔話から、日本人の考え方、生き方、生活のあり方、つまり思想や生活文化の特質の分析にメスを入れた研究書です。

七夕の伝承と習俗にみる民族性

「牽牛織女の邂逅を祝って星祭りをする七夕は、七月七日の行事として広く知られている。ところで、この七夕習俗は、はたして日本在来の民俗であるのだろうか。あるいは、そうではなくて、日本列島以外のどこからか伝来してきた異国の風習なのであろうか。この七夕起源の問題は、日本民俗学が立ち向かっているもっとも重要な課題の一つである。・・・・・・・・・・」

世界各地の継子譚(ままこばなし)

「世界でもっとも有名な継子譚といえば、誰でも「シンデレラ」に指を屈することであろう。このシンデレラ型の昔ばなしは、かつてロンドンの民俗学協会で調査したところによると、実に三百四十五種の多きが知られていたという。しかし近年は民俗学の隆盛にともなって、各地の採集が進み、さらに多数の存在が知られてきた。現在では、五百を越える数に達したといわれている。・・・・・・・」

昔ばなしの研究

「昔ばなし研究でもっとも大事な点は、それが発生した原郷土を探りあてて、そこから誰によってどういう経路をたどって伝播しながら現在地に定着したか、そうした発生の原点・時代、伝播のルート、そして伝承者などの民族的性格や定着地域の社会=文化的諸条件を分析究明し、それによって昔ばなしの特色や文化伝播の法則発見につとめるところにある。・・・・」

櫻井德太郎著『祭りと信仰 民俗学への招待』(昭和42年初版発行)

「田舎育ちの若者にとって、文化の中心地、東京はなんといってもあこがれの的であった。・・・・ところが、時日のたつにつれて懐疑が頭をもたげてきた。こういう大都市にうごめいているものが、はたして日本を代表するものといいうるかどうか。これが日本民族の典型的な文化でございますと、外に向かって断言できるかどうか。土臭い僻地の田舎風の文化と、どことなく華美軽薄な都市の文化との、これほどまでにかけはなれたアンバランス、これをどう説明したらよいのであろうか。はたと当惑したのである。・・・・・」

櫻井德太郎著『沖縄のシャマニズム』(昭和48年7月10日初版発行)

「本土への復帰直前の沖縄に展開した民間巫俗に関する実態報告である。・・・・・民間信仰の調査はどこにおいても多大の困難に見舞われるけれども、巫俗の調査研究にはいっそうの難関がつきまとう。・・・・・初めはよそよそしく振舞っても、心の底では篤いホスピタリティをもつ。それが沖縄の方々の本来の性である。そして一旦こちらの真意を理解して頂けると、拒否の障害と難関は立ちどころに解消する。そして、十年の知己・親戚同様のつきあいにまですすむ。私もまたそういう連なり方で多くの民間巫女にお目にかかることができた。あるユタ(巫女)は私の願いを容れてユタヌヤー(巫家)に宿泊することを快諾してくれたし、某巫女は烈しい巫業に疲れはてていたにも拘わらず、連夜にわたり夜を徹してライフ・ヒストリーをかたり、入巫の神秘的体験を述懐してくれた。」

写真1
今回紹介する書籍
写真2
著作「昔話の民俗学」ほか

写真3
著作「沖縄のシャマニズム」ほか
写真4
柳田國男の著作「後狩詞記」、「先祖の話」

櫻井德太郎著『日本民間信仰論』(昭和48年7月10日初版1刷発行)

櫻井先生は本著の序文で、民俗学について、「この民俗学が、いかなる学問であるかという定義には、必ずしも定着したものはない。しかし、少なくとも、日本民俗学は、日本人の生活伝承を通して、かれらの暮らしのしかた、ものの考え方、感じかた、つくり出した伝承文化の特質、総じて日本人の民族的特性を明らかにする学問であるといったらどうであろうか。・・・・・・」と紹介しています。

櫻井德太郎著『結衆の原点』(昭和60年3月30日初版1刷発行)

本書では「ケ」と「ケガレ」、「ハレ」についての自説が展開されています。櫻井先生によれば、ケは「気」であり、ケガレは「ケ枯れ」となるとした上で「・・・・ケが農業生産を可能にする根源的霊力だとすると、ケの霊力をフルに発揮する手段が必要となってくる。なぜならばケが衰えると労働の精力は弱まり生産は激減するから、日常態の維持継続が危殆におちいる。そこでケの活力を増進させる方法が考案される。農耕作業の開始にあたって予祝的歳時儀礼が展開したり、水口祭、田植祭などの農耕儀礼が盛んに営まれるのは、みな農作物に対する生産力のフルな発現を期待するためであって、ことごとくがハレの行事である。・・・・・ケの日常性を持続させる目的を意図して設けられた点だけは明言できよう。」としています。

写真6
著作「結衆の原点」

櫻井德太郎著『霊魂観の系譜』(昭和52年1月20日初版発行)

櫻井先生は本書において「魂」についてこのように説明しています。「人間のタマシイをヒトダマとよんで恐れたのは後世の変化であろう。人が死ぬとヒトダマは体外へ脱出してしまう。そこで生命をよみがえらせるために、とび出したタマシイをみつけ、体内へ戻すための呪法がおこなわれた。魂よばいなどといわれ、古代人にとつては重大な関心事であった。・・・・・」
また、「のろい釘」や靖国神社についての新たな見解は卓見といえるでしょうし、水没した奥多摩の小河内村についてのフィールドワークに基づく、「朝聟入り」婚の紹介など、興味深い話がたくさん収められています。

柳田國男著『先祖の話』(昭和20年10月22日)

櫻井先生の師匠である民俗学の父、柳田國男氏の研究の集大成ともいうべき本です。日本人の祖先観を徹底的に講究し、日本人の精神風土の根底にあるものが提示されています。「・・・日本民俗学の提供せんとするものは結論では無い。人を誤ったる速断に陥れないように、できる限り確実なる予備知識を、集めて保存して置きたいといふだけである。歴史の経験といふものは、寧ろ失敗の側に於いて印象の特に痛切なるものが多い。従って審かにその顛末を知るといふことが、愈々復古を不利不得策とするやうな推論を、誘導することにならぬとは限らない。しかし其為に強ひて現実に眼を掩ひ、乃至は最初から之を見くびってかかり、ただ外国の事例などに準拠せんとしたのが、今まで一つとして成功して居ないことも、亦我々は経験して居るのである。今度といふ今度は十分に確実な、又しても反動の犠牲となってしまはぬやうな、民族の自然と最もよく調和した、新たな社会組織が考えだされなければならぬ。・・・・・・・」
他にも、「お盆」は仏教行事ではない、という論が説得的に展開されるなど、いろいろと考えさせられることの多い名著です。

柳田國男著『後狩詞記(のちのかりことばのき)』(明治42年2月出版)

我が国における民俗学の最初の書物とされている本で、宮崎県椎葉村の猪狩の伝承を記録したものです。柳田國男の喜寿を記念し、昭和26年に再版されています。伝承中のことばの解説から始まり分量は少ないのですが、猪の生態、狩の仕方、肉の分配の仕方、揉め事の解決の事例等が詳細に語られています。旧かなづかいで書かれており、読みづらい漢字もありますが、著者の思いはしっかりと伝わってきます。
雑誌類からも1冊紹介しておきましょう。

別冊歴史読本 特別増刊 これ一冊でまるごとわかる シリーズ『キリスト教の謎』

西欧魔術とキリスト教、イエズス会の世界戦略、異端カタリ派と生まれかわり説、二十世紀の「キリスト教の奇跡」、特別企画「キリスト教宗派・セクト事典」等の記事が掲載されています。死海文書の解読により、イエス・キリストが70歳位まで生きていたこと、十字架刑が生き埋め刑に変更され、薬により仮死状態にされた後、掘り返して生還したこと、といった驚愕すべき見解も紹介されています。

※櫻井德太郎文庫には今回紹介したものの他にも、多くの興味深い図書・資料があります。是非、ご来館の上ご活用ください。

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