2026年7月14日 夏のアトリエ1日目
2026年も、イラストレーター向けの絵本作りワークショップ「夏のアトリエ」の季節がやってきました。1998年から毎年ボローニャ展の時期に開催し、もう26回目となります。今回は、ポルトガルから河野ヤラ政枝さんにお越しいただきました。ヤラさんはイラストレーターおよびデザイナーで、独立系出版社プラネッタ・タンジェリーナのメンバーでもあります。ワークショップでは英語でお話されるので、通訳はボローニャ展のコーディネーターの森泉文美さんが務めてくれます。参加者は、日本全国、さらには海外からも集まった20名。これから5日間一緒に制作に励みます。
朝、美術館に到着した参加者の中には、少々緊張した面持ちの人もいましたが、ヤラさんが持ってきてくれた絵本を見たり、話したりしているうちに、少しずつ教室の雰囲気も和やかになっていったようです。
1日目の午前中は、ヤラさんの自己紹介から始まりました。ブラジルのサンパウロで、日系人の家庭で育ったヤラさんは、学生時代に薬学を学び、薬剤師として薬局に勤めていました。しかし、ずっと好きだった絵をやめることはなく、デザインやビジュアルコミュニケーションも学びました。あるとき、親戚を訪ねて日本を訪れたことが転機となりました。山梨で学ぶ奨学金制度があることを知り、2000年に奨学金を得て来日し、山梨デザインセンターで1年間を過ごすことになったのです。1年後にブラジルに帰国したヤラさんは、デザインやイラストを仕事にしようと決意し、ポルトガルに移住し、デザイナーとして活動を始めます。そして2003年の暮れ、新聞でプラネッタ・タンジェリーナ社がデザイナーを募集しているという求人広告を目にしたヤラさんは(「みかんの惑星と」いう意味の社名にも惹かれたそうです)、採用面接で意気投合し、2004年からメンバーとなりました。当時、同社はデザイン・スタジオでしたが、やがて絵本の出版を手掛けるようになり、現在は年間3冊程度、多くて6冊の本を出版しています。プラネッタ・タンジェリーナの初期の絵本や、現在展開しているシリーズを紹介してくれました。参加者のなかには、プラネッタ・タンジェリーナのファンも多く、みなさん熱心に聞き入っていました。
その後、ヤラさんが持ってきてくれたご自身の仕事を紹介してくれました。マーカーで描いたポストカードとその原画。コラージュで仕上げた絵本とそのためのリサーチのメモ、ストーリーボード、原画。視覚障害者のために隆起印刷で作ったさわる絵本...... 貴重な資料を手に取って丁寧にお話くださいました。プラネッタ・タンジェリーナのことは絵本やウェブサイトを通じて調べていた参加者も、ヤラさんのこうした活動については初めて知ったのではないでしょうか。
その後、参加者同士の自己紹介となりました。20代の学生から、プロで活躍するイラストレーターや、絵本を何冊も出版している人、漫画や絵画を制作している人もいます。参加者の幅の広さもこうしたワークショップの面白さですね。
そうこうしていたら、お昼近くになりましたが、ここでヤラさんがワークショップの内容についてプレゼンテーションをしてくれました。まずは今回のワークショップのために設定したテーマ「ボロゴドー」について。ブラジルのポルトガル語で、言葉にならない魅力や味わいのことだそうです。この言葉にひかれて参加を希望した人も多かったようですが、ヤラさんは「5日間のうちにボロゴドーがやってこないかもしれないけれど、ワークショップが終わった後にやってくることもある」と言っていたので、ボロゴドーというのは、自然についてくるものなのかもしれませんね。
5日間のスケジュールは、おもに午前中は参加者が一緒に作業するエクササイズ、午後は参加者が個別に制作する時間となります。午後の制作で取り組むのは、「オブジェとしての本」です。これについて具体的な例として、ヤラさんはプラネッタ・タンジェリーナの「角丸シリーズ」を取り上げました。めくる動作や本の「ノド」など、絵本の形やモノとしての本の特徴を生かしたプロジェクトの数々を、絵本を読み聞かせながら説明してくれたので、みんな目を輝かせて聞き入っていました。インタラクティブな作品も多く、幼い子が楽しめる一方で政治的メッセージの込められたものもありました。オブジェとしての本についてもう少し説明が欲しいという参加者からの質問に対して、ヤラさんは、必ずしもインタラクティブである必要はなく、エルヴェ・トゥレ、ブルーノ・ムナーリ、駒形克己の絵本なども参考になると教えてくれました。5日目の午後には、それぞれが考えた「オブジェとしての本」について、ストーリーボードやダミー本をもとにプレゼンすることになります。
ここでちょっと遅めのランチタイムとなりました。夏のアトリエでは、先生や参加者同士の雑談や情報交換することも、普段一人で仕事をするイラストレーターたちにとって大事な要素となります。
午後2時からは、すぐにそれぞれが制作について考える時間となりました。とは言ってもすぐにアイデアが浮かぶものではなく、最初はヤラさんが準備してくれた資料を改めて見直したり、ヤラさんを囲んで質問をしたり、美術館にあるムナーリや駒形さんの絵本を見たりしていましたが、いつの間にかみんなそれぞれの席に戻ってスケッチを始めていました。
ヤラさんはこの5日間で参加者のポートフォリオを見てコメントもしてくれます。ポートフォリオを見せて自分の活動を説明する機会に慣れていない参加者もいますが、こうしたスキルもイラストレーターにとっては大事です。デザイナー、イラストレーターである一方、出版社の立場でもあるヤラさんの視点は、みなさんにとっていいアドバイスになりそうです。
夏のアトリエの始まりとともに、猛暑がやってきました。厳しい季節ではありますが、土曜日まで元気に通ってきてください!


