2026年7月31日 タラブックスの新しい絵本とこれから
2026年7月31日に、トークイベント「タラブックスの新しい絵本とこれから」を開催しました。南インドにある独立系出版社であるタラブックスは、『夜の木』をはじめとして、世界的に知られる出版社です。当館では2017年に「世界を変える美しい本 インド・タラブックスの挑戦」と題した展覧会を行っています。今回は、その展覧会のときにもお世話になった、「地球の歩き方 インド編」の編集や『タラブックス』(玄光社)や『持ち帰りたいインド』(誠文堂新光社)の著者である、KAILASの野瀬奈津子さんと、松岡宏大さんをお招きしての講演会を行いました。
冒頭で、館長の松岡より、過去のタラブックス展についてや、タラブックスと当館とのかかわりについてなどをお話しました。タラブックスの代表のひとりであるギータ・ウォルフさんは、過去にボローニャ展の審査員や、当館の「夏のアトリエ」の講師をつとめてくださっています。そうした関係から、2017年の展覧会につながりました。現在もかかわりが深くあります。
それから、野瀬さんと松岡さんから、お話をいただきました。まずはインドがどういった国なのかについて、「地球の歩き方」のデータを参照しながらお話していきます。インドの国旗から、中心となる宗教や、どのようなコミュニティがあるか、職能集団にあたるジャーティや指定カーストについてなど教えてくれました。こうしたお話は、実は今日このあと紹介するタラブックスの絵本とも深くつながります。松岡さんは、タラブックスの本は、インドの社会がどのようなものなのかを考えさせられる本だといいます。
それからは、カメラマンである松岡さんのお写真を見ながら、お二人の掛け合いのようなかたちで、いくつかの絵本が生まれてきた場所やその背景などを聞きました。実際にその目で見てきたお話かつ、生き生きとした写真に、参加者の方も熱心に聞いています。
『夜の木』は、ゴンド族のバジュー・シャームらによって描かれています。最大の指定部族であるゴンド族のうち、パタンガルという村に属する集団の人しか絵を描きません。彼らはインドの中心的な宗教であるヒンドゥー教などとは異なる宗教体系を持ち、水のすくない山の上に暮らしています。そうした生活のなかで、家の床や壁などに描く絵をきっかけとして、ジャンガル・シンという人物が絵を描き始めました。そのあと、ジャンガルは絵を描くことを推奨し、バジューら親戚や村の人によって描かれるようになります。彼は村の貧しさを絵で解放したい、と考えていたといいます。こうしたことを例に、インドのアートは個人のものではなく集団でおこなわれるものであるといいます。
『DRAWING FROM THE CITY』のテジュベハンと『わたしはなれる』のサンギータは母と娘の関係です。かれらはジョギという一族で、もともと音楽で生計をたてていた遊牧民であったといいます。テジュベハンとその夫が絵を描きはじめ、その家族も絵を描くようになりました。彼らは呪術的な信仰を持っていますが、その作品には宗教的な要素はほとんど描かれません。テジュベハンは、田舎から町に出て絵を描き始めたときのイメージを、娘のサンギータは自らの理想の女性たちを描いています。
布絵本である『The Cloth of the Mother Goddes』を制作したジャグディーシュのところの写真も紹介してくれました。そのジャーティやカーストの問題で、お寺に入れなかった一族であり、参拝ができない代わりに布に女神を描いた仮設祭壇を制作していました。現在ジャグディーシュはその布の制作をしており、300年ほど伝統が続いているそうです。松岡さんが撮影をしたときにもらったというその布も実際に持ってきてくれました。
本を作り続けているタラブックスですが、コロナを経て、働き方なども大きく変わっています。コロナ後に、チェンナイからオーロヴィルに移住し、農園をつくるギータさんからは『たね』という本が生まれました。また、タラブックスのデザイナーであったカトリオーナによるプロダクトブランドであるスタジオ・トルスタや、カトリオーナと一緒につくった布絵本『FELT FREIENDS』などについても言及し、工芸や伝統といったところに関心を持ち続けているタラブックスの現在の活動についても紹介しました。
このように、いくつかの絵本から、インドの社会や伝統との深いかかわりをお話いただいたことで、タラブックスの本や活動についても深く知ることができたのではないでしょうか。実際にインドに何度も通っている野瀬さん、松岡さんの言葉から、新しいタラブックス像も見えてきたのではないかと思います。今後の活動がますます楽しみですね。
イベントの前後には、当館にあるタラブックスの絵本を新しいものを中心に展示しましたが、とても熱心にご覧になっている様子が印象的でした。
楽しいお話をしてくださった野瀬さん、松岡さん、ありがとうございました!



