時代を紡ぐ「板橋の特産野菜 清水夏大根とその種」

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ページ番号1004907  更新日 2020年1月28日

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商家高名録

「しはしとて 大根かんはん 清水かけ」
これは、享保18年(1733年)に刊行され、江戸の名所や名物を俳句で紹介した「名物鹿子」に収録されている清水夏大根種の記事です。作句は松葉軒桒楊という人物で、実際の資料には旅姿の人が小川を見つめている挿し絵が付されています。
享保20年刊行の「続江戸砂子温故名跡志」によると、清水夏大根種は江戸から見て中山道板橋宿の先に位置する清水村(旧前野村清水、現清水町・宮本町付近)で作出された特産品で、夏に収穫される大根の種のことです。また、よそで実った大根から採った種を植えても二代目は生育しないので、毎年産出地の清水村で種が作られていました。
なお、宝暦6年(1756年)に刊行された中山道の案内本である「岐蘓路安見絵図」によれば、清水村では名物の「江戸夏大根種」が売られ、これが上方筋(京・大坂)でも珍重されていたとあり、その販路が中山道を通じて西日本にまで広がっていたことがわかります。
文政8年(1825年)に刊行された中山道筋にある商家を紹介した「商家高名録」には、清水村で「練馬大根種・清水夏大根種・にんじんの種」を販売していた清水権左衛門店が掲載されています。ここにある清水権左衛門は、同年に十方庵敬順によって記された紀行文「遊歴雑記」にも登場しています。そこには「よろづの種ものに名だかき清水権右衛門…」とあり、実際には権左衛門ではなく権右衛門と称しており、武蔵野台地でさくしゅつされた根菜類の種を商う有名な種屋として知られていました。
郷土資料館には、清水権右衛門の店頭に長らく掛けられていたと思われる「練馬大根種清水権右衛門」「清水夏大根種 清水権右衛門」と両面に墨書がある木製看板が子孫のかたから寄贈されています。この貴重な資料は、冒頭に示した「清水夏大根種」の句にある「清水に掛けられた大根看板」そのものなのかもしれません。
中山道板橋宿は、大都市江戸の出入り口の一つであり、清水村はそのそとがわに位置しています。「名物鹿子」の当句は、ここに掛かる名物夏大根の種屋の看板に、旅人が江戸から旅立つ際の、しばしの別れの寂しさを詠んだ作品だと思われます。 【学芸員 吉田政博】
※平成22年8月21日発行「広報いたばし」掲載

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