2023年6月29日 絵本講座「さわる絵本づくりワークショップ」1日目

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ページ番号4001779  更新日 2023年7月2日

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ボローニャ展の会期に合わせてイラストレーターを対象にした絵本講座が始まりました。午前・午後の3日間連続で、視覚に障がいのある方たちのためのさわる絵本について学び、それぞれの作品を作ります。講師のピエトロ・ヴェッキアレッリさんは、今回のワークショップのためにイタリアから来日してくださいました。
当館では、2020年のボローニャ展の際に「<視る>を超えて」と題する特別展示を行いました。この展示では、視覚に障害のある方とともにイラストレーションや絵本を楽しめるように、入選作品の触察パネルとともに、イタリアで制作されているさわる絵本をご紹介しました。このときにご協力くださったのが、ローマにあるイタリア全国視覚障害者支援施設連盟で視覚に障がいのある子どもたちのための教材を作っているピエトロさんでした。
ピエトロさんたちは、2004年ころからさわる絵本の制作をスタートし、現在までに70タイトル14000部を発行し、イタリア各地の公共図書館や病院などに届けているそうです。これらは教育的な目的の本というよりも、子どもたちの感性を刺激し、他者とのコミュニケーションを育むための本であり、障害のない子どもたちも一緒に楽しめるという点も魅力的です。また、ピエトロさんたちは普及活動にも力を入れており、新しい表現を求めてさわる絵本のコンクールを開催したり、展覧会やワークショップも精力的に展開しています。

今回は、初めて日本のクリエイターたちとともにワークショップを行います。ピエトロさんは、重い大きな荷物とともにローマからやってきてくれました。3日間でさわる絵本について学び、参加者もそれぞれの作品を制作をするというハードな内容ですが、イラストレーター、デザイナー、美術学校の教員など19名が参加してくれました。通訳は、ボローニャ展コーディネーターの森泉文美さんです。イタリア在住の森泉さんは、イタリアにおける視覚障がい者の美術教育や美術鑑賞にお詳しく、2021年にはピエトロさんたちの主催するコンクールの審査員も務めました。

1日目の午前中は、さわる絵本についてのレクチャーから始まりました。さわる絵本の歴史的な背景、点字に関すること、手でさわる場合の認知の仕方やスピード、そして、さわる絵本を制作する場合のいくつかのルールなど、実にたくさんのことを教えてくださいました。視覚に障がいのある子どもたちが楽しめるようにするには、できるかぎりシンプルでなければならないこと、そしてテキストやコミュニケーションがとても大事であること、本全体に一貫性があること、そして美的であることなど、ピエトロさんのこれまでの経験に裏打ちされた強い確信が伝わってくるレクチャーは、参加者にとっては新鮮な驚きの連続だったのではないでしょうか。
その後、参加者の自己紹介を行いました。異なる経歴や活動の人たちが集まり、交流したり影響を与え合ったりすることも、ワークショップの面白さです。

ランチタムを挟んで、さっそく一つ目の制作が始まりました。ピエトロさんたちが発行している「ゆびさきのおはなし」というさわる絵本は、触覚的なカードが箱の中にセットされていて、それらを組合せながら自分でお話を考えるというゲームのような作品です。今回は、参加者たちが新たなカードを2枚ずつ制作してオリジナルのバージョンを作ります。ピエトロさんから、1枚には具体的なもの、もう1枚には感覚(気持ちなど)を表わすように指示がありました。さっそく固いカードが2枚配られ、各自持参した素材や美術館で用意した素材を使って、制作がスタートしました。

さらにこの日の午後には、視覚に障がいのある方と、手と目でみる教材ライブラリーの大内進先生がお越しくださいました。美術鑑賞をめぐるご自身のこれまでの経験や、日本における視覚障がい者の美術教育の状況など、たくさんのことをお話くださいました。
お話の後には、参加者たちが制作したカードを実際に触っていただきました。1枚1枚について、「この触感は好き」とか「これはなんだろう」といった感想とともに、どこが分かりやすいか、どこが分かりにくいか、丁寧に教えてくださったので、参加者たちにとってとても勉強になったようです。さらに、コミュニケーションの重要性や言葉の選び方など、カードを介してのやりとりのすべてから得るものがあったようです。

今回は3日間で1冊の絵本を仕上げなければならないので、事前に絵本のプロジェクトや素材を用意してきてもらいましたが、1日目を終えてたくさんの気づきがあり、プロジェクトを考え直す必要に迫られた参加者も多かったようです。
ピエトロさんは、さわる絵本のための重要なポイントを何度も強調していました。視覚に障がいのある人のためのものであること、できるかぎりシンプルであること、言葉がとても大事であること…。参加者のみなさんはイラストや絵本の制作経験のある方たちですが、いつもの方法は忘れてこのワークショップに臨んでほしいというピエトロさんの言葉通り、普段の技法やスタイルとは異なるやり方での制作が始まります。

さわる絵本ワークショップ1日目

さわる絵本ワークショップ1日目-1

さわる絵本ワークショップ1日目-2

さわる絵本ワークショップ1日目-3

さわる絵本ワークショップ1日目-4

さわる絵本ワークショップ1日目-5