2023年 9月14日 夏のアトリエ3日目

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ページ番号4001805  更新日 2023年9月15日

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夏のアトリエ3日目。これまで2日間のシドニーさんの講義やエクササイズなどから、参加者のみなさんはすでに大きな刺激を受けて、消化しきれないほどという感じの方もいるようです。シドニーさん自身の絵本についての講義を聞くだけでもたくさんの学びがあるのですが、その後に参加者も手を動かしたり考えたするエクササイズを加えることで、さらに深い気づきが生まれたり、腑に落ちたりするようです。

3日目の午前中もシドニーさんの2冊の絵本のお話から。『うみべのまちで』という絵本は、カナダのノバスコシアの海辺の町が舞台です。シドニーさんはその近くで生まれ育ったので、いい作品にしようという思いも強かったと言います。絵本の制作にあたっては、その町の写真や映画などを見て準備を進めていましたが、やはり現地に実際に行ってみなければならないと思い立ち、当時住んでいたトロントから取材の旅に出ました。その土地に身を置いて、様々なことを感じ取り、スケッチや撮影をして、地元の人にも話を聞きました。こうしてたくさんの情報を得てから描き始めたこの絵本には、人々の生活のディテールも描き込まれています。それらの細部描写は、他の土地に住む人が見たときにも物語にリアリティを与え、普遍的なテーマを読者に伝えてくれるとシドニーさんは言います。

『このまちのどこかに』は、初めてシドニーさんが絵と文を両方とも手がけた作品です。様々な感情を想起させるこの作品は、絵のみ、あるいは文章のみでは語れないような絵本にしたいと思って制作したそうです。たとえば明るい状況を想像するような文章でも、絵を見るとそうではない感じを受けるかもしれません。そのため、主人公の気持ちや状況をしっかり把握している必要があります。制作にあたっては、家の周りを歩いて町の様子をたくさんスケッチしたそうです。シドニーさんはどこに行くにもスケッチブックを持っています。参加者に対しても、いつもスケッチブックを持ち歩いて見たものを描く習慣をつけるようにとアドバイスがありました。このスケッチの積み重ねはアーティストにとって非常に大切なことであり、ディテールを描くときに助けになると言います。『このまちのどこかに』のあらゆる場面にスケッチしたものが生かされていることを、たくさんのスライドで説明してくれました。

午前中の後半は講義の内容を実践するエクササイズでした。まず、いつものように白い紙を1枚ずつ配ります。そこに、15分ほどで公園で遊ぶ子どもの絵を描くようにとシドニーさんから指示があり、みなさんそれぞれの画材や視点やモチーフで描いていました。
その後、シドニーさんの提案で、美術館の前の公園に実際に行って、子どもの気持ちになって様々なことを感じたり見たりして、それをメモやスケッチで記録することになりました。参加者たちは公園のあちこちに散らばり、暑さを体感し、耳に入ってくる音を聞き、においを感じ、日の光の変化を観察し、メモして、夢中でスケッチをしていました。蚊に刺されたり、汗びっしょりになったりしても、それもひとつの記憶となるのかもしれません。
ランチタイムの後、スケッチをしてみてどんなことを記録したのか何人かに聞いてみました。そして、あらためて公園で遊ぶ子どもの絵をみんなに描いてもらいました。日差しの熱さ、木々の大きさ、風、音、匂い… こうしたものを体験して記録した後に描いた絵を、その前に描いた絵を比べると、やはり変化が見られました。その場に身を置いてあらゆるものを感じ、見て、スケッチして、記録をすることが、絵本の制作にとっていかに大切なことであるか、実感する機会となったのではないでしょうか。

シドニーさん自身も公園の階段に座ってスケッチし、部屋に戻ってスケッチを元にして絵を描いていました。シドニーさんの絵を通してみると、見慣れた情景が絵本の中の世界のようで、美術館スタッフも感動してしまいました。(いつもシドニーさんは、ほかのエクササイズも参加者と同じようにやっているのです。)

午後の後半は最終課題に向けた準備に入ります。今回は、各自のオリジナルのストーリーを10~15行のテキストにして、3場面(見開き)に振り分け、各場目の絵を描き、文字と絵のレイアウトも自分で考えます。まずは前日に書き出した子ども時代の2つの記憶を見直して一つを選ぶのですが、その際、シドニーさんからの8つの質問を念頭に置くよう言われました。たとえば、1日のうちの何時頃ですか、その周囲にはどんなにおいがしましたか、何が聞こえますか… 絵を描いたりお話を作るうえで、こうしたディテールも欠かせない要素であることは、今日のスケッチの体験からよくわかったと思います。
それぞれ10~15行程度のテキストを作りながら、どんなレイアウトにするのか、どんな絵にするのか、計画を立て始めました。1時間ちょっと作業をして、4時前に数人の参加者にテキストを読んでもらいました。文章を聞くとさまざまな情景が思い浮かびます。そこにどんな絵が付けられるのか、楽しみですね。

シドニーさんは、エクササイズや課題あとにいつも共有する機会をもちます。イラストレーターはひとりで作業することが多いので、いろいろな人の絵を見たり、自分のやったことをふりかえるというのも、貴重な時間になるようです。

夏のアトリエ3-1

夏のアトリエ3-2

夏のアトリエ3-3

夏のアトリエ3-4

夏のアトリエ3-5

夏のアトリエ3-6