2023年 9月15日 夏のアトリエ4日目

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ページ番号4001807  更新日 2023年9月16日

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夏のアトリエは、はやくも終盤に入りました。これまでの講義やエクササイズを経て、そろそろ最終課題に向けて本格的にそれぞれ制作にはいることになります。

4日目の午前中も講義から始まりました。シドニーさんの絵本『ぼくは川のように話す』の読み聞かせを聞いてから、絵本の制作についてじっくりとお話を伺いました。この絵本では、主人公の少年の考えていることや感じていることに読者も入り込んでいくことができるように考えて制作したそうです。そうするこで、読者もそれぞれの経験からさまざまな感情を思い出して、少年の気持ちになれるのではないかと言います。少年の目と見ているものを描いたり、少年の顔と考えていることをオーバーラップさせて描いたり、少しぼやけたように描いたり、各場面をなぜそのように表現したのか具体的に紹介してくれました。
この絵本では、それまでの作品とは異なる技法で描かれています。シドニーさんは、いつも画材やその使い方もいろいろと試していて、自分ではコントロールできないようなやり方や偶然性を取り入れることにも積極的です。きれいにうまくできた絵よりも、そうでない絵の方が少年の心情が伝わるのではないかと気づいた場面もあるそうです。さらに、多くのイラストレーターが気にしている「スタイル」についてもシドニーさんは言及してくださいました。自分のスタイルはこれだと決めてしまうと、それが足かせになってしまうこともあると言います。スタイルというのは、どういう作品なのか、どのくらい時間があるのか、といったことによって決まるものだし、1つの作品の中で必要に応じてスタイルを変えることもあるということです。

毎日の講義で、シドニーさんは絵本の制作で心がけたこと、試したこと、気づいたことなど、たくさんのことを惜しげなく話してくれます。参加者のなかにはシドニーさんの絵本を何度も読み込んで来た人も少なくないと思いますが、連日シドニーさんのお話を聞いて改めて読むと、また新たな発見があるかもしれませんね。

講義の次はがらっと変わって、また短い簡単なエクササイズをしました。シドニーさんは、せっかくカナダから持ってきたからと言って付箋紙を取り出し、赤・青の付箋紙を3枚ずつ配りました。赤い付箋には「最近食べたもの」「ペット」「今日来るまでに見たもの」の絵、一方青い付箋には疑問文、命令文、歌のタイトルの短いテキストを、短時間でササッと書くように指示されました。5分ほどしたら、まずは絵の描かれた赤い付箋を壁に貼ります。次に、他の人の絵の下に、何も考えずに青い付箋紙を貼ります。すると、前日の3コマ絵のエクササイズのように、絵と文の偶然の組み合わせを楽しむことができ、再び教室内は大盛り上がりとなりました。

『ぼくは川のように話す』の中には、コマ割りした中に少年の横顔がいくつも描かれている場面があります。これをヒントに、午前中の最後にはもう一つ、感情を表すためのエクササイズをしました。まずは、どんな感情があるのか参加者に挙げてもらいました。喜び、悲しみ、孤独、空虚など、たくさんの感情のリストが出来上がりました。その中から各自が選んだ一つの感情を、目や口のないシンプルなプロフィールの人物で表現するのですが、1枚の紙を折って16分割にして小さなコマにたくさんのバリエーションを描きます。与えられた時間は20分。みんな水彩や鉛筆などを使ってどんどんコマを進めていきます。時間を制限することで集中力も高まっているようでした。
12時が近かったこともあり、そのままお昼休憩となりました。(シドニーさんは、12時のお昼の時間や16時の終了時刻を、いつもぴったり守ってくれます。)

お昼休憩中に16の横顔が並んだ紙を全員が壁に貼り、午後にみんなで一緒に見てみました。選んだ感情もそれぞれ異なりますが、描き方も実に多様です。シドニーさんは数人の参加者に、どの感情を表現したのか、一番気に入っているのはどの横顔か聞いてみました。きれいに描けたものが一番のお気に入りになるとは限りません。絵本を制作をしているときは、ある場面で感情を伝えるのにどんな表現が合うのか、たくさん描いて自分で選ばなけれならないとシドニーは言います。今回のワークショップでは、感情をあからさまでないやり方で表現することもポイントです。みんなが描いたものが期待していた以上によくできたと満足そうなシドニーさんでした。

その後、最終課題のために前日に準備した3見開きの計画について、参加者がペアになって話し合うよう時間をもちました。一人が自分のストーリーなどを説明して、もう一人がそれを聞いて質問をしたり意見します。シドニーさんは、その際に確認すべき4つのポイントを挙げました。絵とテキストの内容が重複ばかりでないか、時間と場所がきちんと設定されているか、読者にこのように感じてほしいという押しつけがないか、主人公の視点になっているか、または主人公から離れた視点になっているか。まさにイラストレーターと編集者の面談ようです。客観的に自分の作品を見てくれる人の存在はとても大切です。これに費やしたのは20-25分程度でしたが、本描きに入る前の貴重な時間となったようです。

午後2時からは各自の最終課題の制作に入りました。すぐに本描きに入った人もいますが、どんな絵にするか、どんな構成にするか、悩み続ける人もいました。いつもとは違う技法や描き方に挑戦している人もいます。教室内は時々シーンと静まりかえります。与えられた時間は翌日のお昼過ぎまでです。16時の終了時刻を過ぎても残って制作を続けたいという参加者がたくさんいました。でも、ときには輪になっておしゃべりしたり、他の人の制作を見てみたり、お菓子を食べたり、放課後の学校のようでした。

夏のアトリエ4-1

夏のアトリエ4-2

夏のアトリエ4-3

夏のアトリエ4-4