2023年 9月17日 シドニー・スミスさん講演会

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ページ番号4001810  更新日 2023年9月18日

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9月17日(日曜日)には、前日まで行われていたワークショップ「夏のアトリエ」の講師を務めたカナダの絵本作家、シドニー・スミスさんの講演会を開催しました。日本でもファンの多いシドニーさんのお話を直接聞けるということで、申込開始日のうちに定員いっぱいとなってしまいした。
講演会の通訳は、「夏のアトリエ」に引き続き翻訳者の前沢明枝さんがお引き受けくださいました。

講演では、今年のボローニャ展の審査をしたことが縁で、今回の来日が実現したというお話から始まりました。そして、前日まで開催していた「夏のアトリエ」についても言及されました。イラストレーターはひとりで閉じこもって仕事をすることが多いからこそこうした機会が有意義であること、そして信頼できる仲間同士で制作や作品について意見を交換した時間がこのワークショップのハイライトだったとおっしゃっていました。「夏のアトリエ」がシドニーさんにとっても特別な体験となったのであれば、美術館としても大変光栄なことです。

 その後、ご自身のお話にうつっていきました。とても敏感な子どもだったというシドニーさんの幼少期は、悲しい絵本や寂しい音楽が好きだったそうで、一番のお気に入りはエドワード・ゴーリーの縮んでいく子どもを描いた絵本だったといいます。子どもはいろんな複雑な感情をもっていて、そういうものを絵本の中に見つけて確かめていくのではないかとシドニーさんは言います。夏のアトリエでも、複雑な感情については何度も口にされていました。

 そして、ご自身の6冊の絵本について、どのような思いで制作したのか、なぜそのような表現にしたのか、スライドとともに丁寧にお話をしてくださいました。
シドニーさんのイラストレーターとしての旅の始まりとも言える『お花をあげる』では、感情をどのように表現するか考えながら制作にのぞんだそうです。シンプルなストーリーですが、ひどく感傷的になったり、押しつけがましいものにはならないように、読者がどのように受け止めるのか想像しながら制作したことを、具体的な場面を挙げて説明してくれました。
カナダのノバスコシアの炭鉱の町を舞台にした『うみべのまちで』では、『お花をあげる』の制作の中で学んだたくさんのことが生かされていると言っていました。また、テキストと絵が同じことを表現するのではなく、相反することを表現する手法(対位法)を取り入れたこの作品を通して、イラストレーションの持つ力の大きさに気づいたということです。
『このまちのどこかで』においても前2作で取り入れた表現の工夫が使われていますが、初めてテキストも手がけたこの作品では、絵と文の両方がそれぞれの役割を果たすような絵本にしようと考えたそうです。読者は読み進めていくうちに、主人公の言葉が自分たちに向けられたものではないことに気づきます。読者がどの時点でそれに気づくのか想像するのが難しく、でもそれが面白い点でもあったそうです。
『ぼくは川のように話す』では、それまでの作品とは違って、読者が主人公の頭の中に入り込んでいる気分になるような表現を試みました。そうすることで、同じ体験をしていなくても、主人公の気持ちを共有できるのではないかと考えたそうです。そのために新しい表現にも挑戦したそうで、実験的な技法を用いた場面や観音開きのしかけを取り入れた場面についてお話くださいました。
『おばあちゃんのにわ』は、日本ではこの夏に発売されたばかりの作品で、テキストは『ぼくは川のように話す』と同じ作家によるものです。いつも読者のことをよく考えながら絵本を制作するシドニーさんは、読者を信じることも大事だと言います。絵を見れば読者が理解できると考えた場面ではテキストを省いたというエピソードをご紹介くださいました。
最後にお話くださったのは、2週間後にアメリカで発売される「Do You Remeber?」という最新作です。自身の少年時代の記憶を元にしたこの作品は、着手してからその仕事の大変さに気づき、仕上けるのに3年もかかったとおっしゃっていました。この経験から、「夏のアトリエ」においても参加者それぞれが記憶を元に作品を作るという課題を出したそうです。シドニーさんは、参加者たちのプレゼンテーションが終わったあとに、思い出をみんなに共有してくれてありがとうと言いました。自分の記憶に向き合うことは決して簡単なことではありませんが、それでも、記憶を語ることにどんな意味があるのか、その強い思いが伝わってくるお話でした。

その後の質疑応答では、アーティストとしてのモチベーションはどこからくるのか、新しい絵本を作る際にどのようにそのテーマを決めるのか、といった質問があがり、シドニーさんはひとつひとつ丁寧に答えていました。
さらに、講演会の後には絵本へのサインにも応じてくださいました。

 シドニーさんは、「夏のアトリエ」でも、制作の中で考えたことや気づいたことを惜しげなく披露してくださいました。今回の講演会は90分という短い時間でしたが、内容がぎゅっと詰まった貴重なお話をいただきました。シドニーさんの絵本を何度も読んできたファンのみなさんにとってもたくさんの気づきがあったことと思います。
そして、5日間のワークショップでシドニーさんとイラストレーターをつないでくれた前沢さんは、シドニーさんの考え方や作品を深く理解したうえで通訳をしてくださいました。
シドニーさん、前沢さん、本当にありがとうございました。

講演会1


講演会2

講演会3