2023年7月15日 講演会「映画『手でふれてみる世界』から知る美術館におけるアクセシビリティの歴史と現在」

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ページ番号4001786  更新日 2023年7月18日

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7月15日には、映画監督でキュレーターの岡野晃子さんにお越しいただき、講演会を開催しました。
岡野さんは昨年、「手でふれてみる世界」という映画を制作しました。この映画は、視覚に障がいのある人も展示物にさわって作品を鑑賞することのできるイタリアの美術館を舞台にしたドキュメンタリーです。講演会では、この映画のエピソードを交えて、美術館におけるアクセシビリティの歴史と現在の状況についてお話くださいました。

美術史を修めて美術館に勤務された岡野さんは、その後、美術館の教育普及について学ぶために渡米されました。ご講演の中では、1948年の世界人権宣言における、全ての人が芸術文化に接する権利を有するという条項や、アメリカの教育学者のジョン・デューイの著作など、美術館のアクセシビリティにとって土台となる考え方についてもご紹介くださいました。
アメリカから帰国して、日本の美術館でさまざまな取り組みをしていた岡野さんが映画を撮るきっかけとなったのは、2018年に目にした1枚の写真でした。その写真とは、イタリアのオメロ美術館の館長で視覚障がい者のアルドさんが彫刻を抱擁するようにして鑑賞している写真でした。アンコーナという町にあるこの美術館では、視覚に障がいのある人もない人も、展示物のすべてにさわることができます。「触察」のおもしろさや館長ご夫妻の人柄に魅了された岡野さんは、アンコーナに何度も足を運んで撮影を始め、昨年映画が完成し、現在国内外で上映されています。
講演会では、オメロ美術館の活動や、「触察」による作品鑑賞とはどのようなものか、そして国内の美術館でのアクセシビリティ拡大の試みについて、具体的にお話くださいました。
ご講演の最後には、岡野さんが映画で伝えたかったこと、そして本当の意味でのインクルーシブとは何か、といったこともお話くださいました。博物館や美術館がさまざまな違いを認め合うことができる場所であるというアルド館長の力強い言葉も印象的でした。

デジタル化が進み、さらにコロナ禍で触ることを制限された日々を経て、触るということが見直されているのではないでしょうか。当館では、現在開催中の「ボローニャ国際絵本原画展」の入選作品の中から5枚を選んで触察パネルを制作しました。他の人とコミュニケーションしながら時間をかけてゆっくり作品を味わうことで、触察による作品鑑賞の豊かさ、奥深さをぜひ体験してみてください。

講演会1