2025年7月1日 夏のアトリエ・1日目

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ページ番号4001982  更新日 2025年7月12日

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今年もボローニャ展恒例の「夏のアトリエ」がはじまりました!
板橋区立美術館で行っている、イラストレーター向けワークショップである「夏のアトリエ」。1998年にはじまり、今年で25回目を迎えました。今回の講師は、アイルランド出身でロンドン在住のデザイナー、イラストレーター、絵本作家であるクリス・ホートンさんです。通訳は、ボローニャ展のコーディネーターでもある、森泉文美さんがつとめてくださいました。

今年のボローニャ展の審査員をつとめたクリスさんは、35の言語に翻訳されている『ちょっとだけまいご』をはじめ、これまで7冊の絵本を出版されています。グラフィカルな表現と、特徴的な色彩、そして可愛らしいキャラクターが印象的な作品です。いずれも日本でも出版されているので、書店で目にしたことのある方も多いのではないでしょうか。邦訳版はいずれも木坂涼さんによる翻訳で、BL出版より刊行されています。
また、2024年には、クリスさんにとってはじめてのノンフィクション作品である「The History of Information(情報の歴史)」を出版しています。本作も、邦訳版の出版が予定されています。

参加者は、普段よりイラストレーターやデザイナーを仕事としている人をはじめ、学生などいずれイラストレーターなど作品をつくることを目指している方々です。たくさんの応募者の中から、東京近郊にお住まいの方だけでなく、日本各地より参加者18名が集まりました。
今回の夏のアトリエに、クリスさんは「自分の〈声〉を視覚化する:言いたいことを見えるようにするために」というタイトルをつけてくれました。自分だけの〈声〉……つまり、絵本作家として必要な自分らしいスタイルやビジョンを探すことを目指すワークショップです。自分らしさを見つけるというのは、絵本を制作しようとするなかで、多くの人がぶつかる壁のひとつではないでしょうか。

午前中にはまず、クリスさんから自身の仕事についてのお話がありました。
元々デザイナーやイラストレーターとして仕事をしていたクリスさん。10年かけて自分なりのビジュアル・ランゲージ(視覚言語)をつくっていったと言います。その中で絵本を制作したいと考えるようになったそうです。これまで様々な主人公による絵本を7つ制作し、それらは絵本で完結するのではなく、グッズなどとしても展開されています。
最新作である「The History of Information」は、出版までになんと17年もかかったプロジェクトとのこと! 美しいビジュアルをふんだんに用いながら、5万年前から、どのように情報が伝達されてきたのかということを、文字や絵、印刷、報道やインターネット、AIなどの観点から紹介しています。元々アニメ制作会社で働いていたというクリスさんですが、アニメーションで本作もトレイラー映像も制作しています(クリスさんのHPでご覧いただけます)。
現在は、インフォグラフィック(わかりづらいデータや情報を、図やイラストでわかりやすく表現すること)を用いた本を制作しており、「The History of Information」が過去から現在に向かっていったのに対し、歴史を遡っていくような本になるとのことでした。
また、クリスさんはどうやって物事を伝えるか、だれにでも伝わるようにビジュアル化するかということに関心を持っているそうです。絵本という子ども向けの媒体にとって、物事の伝え方や伝わりやすさというのはとても重要です。参加者も熱心にクリスさんのお話に耳を傾けていました。

クリス・ホートンと森泉文美さん


クリスさんは様々なところでワークショップも実施しています。実は今回も、ドイツやオランダ、韓国などに滞在し、ワークショップなどをしてから、日本にやってきてくれました。
以前は主に学生を対象として、アドバイスをするタイプのワークショップを行っていたそうですが、どんどん参加者の絵が自分の絵に似てきてしまったことに気づき、参加者それぞれが自分らしい作品をつくれること、引き出すことを目指すようになっていったとのことでした。そこから、それぞれに「2つの好きなイメージ」を見せてもらうことで、その人の方向性がわかるのではないかと考えるようになったそうです。
クリスさんも、最初絵本をつくるとき、どういうものを作りたいかと自分に問いかけたそうです。そのとき、ふたつの作家が浮かんできたといいます。そのひとつがレオ・レオーニのシンプルな描き方や可愛らしさであり、もうひとつがモーリス・センダックの持つマジカルな雰囲気だったとのこと。このふたつを混ぜたらどうなるか? を試すなかで生まれたのが『ちょっとだけまいご』だったといいます。他にも、仕事で出会った自分とは方向性の異なる新しい表現と、自分の絵を組み合わせていくなかで、自分なりのスタイルを生み出していったそうです。クリスさん自身が、最初から自分のスタイルが決まっていたわけではなく、試行錯誤していったということは、参加者のみなさんにとっても励みになったのではないでしょうか。
こうした経験から、クリスさんは2つの異なる好きなものを組み合わせるワークショップを様々なところで実施しています。過去の受講者による例を見せながら、2つの異なるビジュアル・ランゲージを組み合わせると多彩な方向性が生まれることを教えてくれました。

お話のあとは、参加者による自己紹介を行いました。参加者には、事前に2つの好きなイメージを持ってくるようにお伝えしていました。自己紹介では普段の自分がやっていることとともに、その2つのイメージのどこが好きなのかを紹介してもらいました。みなさんが見せてくれたイメージは、絵本などのイラストレーションだけでなく、デザインや建築、ファッションなど、多種多様です!
クリスさんいわく、2つのイメージはできるだけ違うものがいいとのことで、なにを持ってくるか悩んだ人も多かったようです。2つに絞り切れず、3つ以上持ってきている人もいました。

午後からは、早速制作に入ります。
持ってきた2つのイメージから要素を抜き出して、思い浮かんだ1つの場面をつくりだします。それぞれのイメージの要素をテキストで書き出し、どんなものをつくるか考える人もいれば、見た印象をもとにまずはスケッチを制作していく人など、取り組み方は各々で異なります。
その間、クリスさんはひとりひとりの席をまわり、参加者それぞれが持ってきた2つのイメージについてより詳しく話したり、制作についてのアドバイスをしてくれました。とても丁寧に参加者と向き合い、一緒に考えてくれている様子でした。また、好奇心旺盛なクリスさんらしく、はじめてみるイメージについて詳しく聞くような場面も見られました。

2日目以降も、午前中に講義やエクササイズ、午後に制作を行います。最終的には、32ページ分のストーリーボードと、2場面を描いたイラストレーションを制作するとのことです。


受講生と話すクリス

2つものを組み合わせる、制作の様子