2025年8月3日 「絵本のまち板橋」が結ぶ絵本とSDGs
板橋区は現在「絵本のまち板橋」としてブランディングを進めています。ボローニャ展を開催する板橋区立美術館と、ボローニャ絵本館のある板橋区立中央図書館を中心に、絵本に関するイベントなどを展開しています。また印刷製本業も盛んな板橋区には、絵本の製本を専門にする大村製本株式会社もあり、実際に絵本が作られる場所でもあります。一方で、板橋区ではSDGsの推進にも積極的に取り組んでおり、近年では絵本とSDGsを中心に据えてまちづくりを進めています。そのような中、板橋区職員の有志である「絵本部」が、SDGsの各目標に関わる17冊の絵本を選んでブックリストを作成しました。現在開催中のボローニャ展では、これら17冊を展示しています。
そこで、8月3日には、板橋区の絵本とSDGsに関する取り組みや、今回作成したブックリストについてお話をするトークイベントを開催しました。まず登壇したのは、板橋区政策企画課の安川史章さん、元板橋区職員で現在東京子ども図書館に勤務している笹岡智子さん、当館館長の松岡希代子の3名です。イントロダクションとして、松岡が今年春のブックフェアで板橋区の取り組みと17冊の絵本のプレゼンテーションをしたことから話し始めました。次に、安川さんが2023年度に作成した「いたばしさんぽ」というゲームについて説明してくれました。これはSDGsをそれぞれの地域に「ローカライズ」することを目的としたもので、子どもも大人もSDGsを自分事としてとらえ、住んでいる身近な場所のなかから考えられるようにするために企画されました。当初は絵本を作るという案もありましたが、子どもたちがより主体的に行動できるようにゲームの形になりました。子どもたちにアンケートをとり、絵本作家の三浦太郎さんが板橋各所のイラストを描き、専門家の監修のもと、アートディレクターの柿木原政広さんがゲームにまとめてくださいました。このゲームは実際に区内の教育施設などで活用されているほか、オープンソース化して他の自治体もそれぞれの地域に合わせて制作できるようにしており、これまでに2つの自治体が採用しているとのことです。
ここで松岡から、ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア(BCBF)による、絵本を通じたSDGsへのアプローチについて説明がありました。なかでも、国連がBCBFや各国際機関とともに行っているSDGsブッククラブは、国連の公用語である6か国語それぞれに、各17目標に関連する絵本を選んでリスト化するというもので、昨年来日したブックフェアのディレクターのエレナ・パゾーリさんも推進者の一人です。絵本部が選んだ17冊は、このプロジェクトにインスピレーションを受けたものです。
続いて笹岡さんが、日本におけるSDGsに関する絵本や、国連やBCBFによる取り組みについてお話をしてくださいました。日本でSDGsに関する絵本が出てきたのは2018年頃からだそうで、現在では読み物やノンフィクションなどさまざまなジャンルでSDGsに関連した児童書が出版されています。また、ブックリストとして書籍が発行されたり、雑誌で特集が組まれたりすることもあります。また、インターネット上には、各自治体図書館が作成しているSDGsに関するブックリストも多数あり、それをまとめた上野の子ども図書館のサイトにも言及されました。そうしたなかで、笹岡さんは、板橋区絵本部がSDGsに関連する絵本を選ぶ上で、どんな方向性にするかについても一緒に考えてくださいました。松岡と話し合いなgら、翻訳絵本の方がSDGsにあてはまるものは多いけれど、ボローニャという場を考えるとやはり日本の絵本を紹介するということに決め、そして知識の絵本というよりも、子どもが楽しんで読める絵本の中からSDGsを感じ取ったり関連付けたりできる作品を選ぼうということになりました。それは、図書館で子どもたちに本を手渡す立場からの実感のこもったお話でした。
後半は、17冊の絵本のなかから9冊について、絵本の内容や選んだ理由を紹介しました。紹介者は、図書館、教育委員会、児童館、総務課、福祉事務所など、板橋区の各部署に所属する絵本部部員たちです。それぞれの絵本との出会いは、自宅で子どもと楽しんでいたり、仕事で使っていたり、あるいは選書会で初めて知ったなど、さまざまです。どのようなところがSDGsにつながるのか説明をしながら、自分の仕事とのつながりをお話したり、部分的に読み聞かせをしたりする部員もいました。
絵本は、子どもにとっても大人にとっても、想像力をはぐくみ、多様な解釈を許容してくれます。だからこそSDGsを主体的に考えるきっかけも与えてくれるのではないでしょうか。国連のSDGsブッククラブは、リストを作ることが目的ではなく、リストを使って読書会をすることを促すものだそうです。絵本部の選書会においても、絵本をみんなで読んで議論するなかで、SDGsや絵本の解釈を話し合ったりする場面もあり、こうしたプロセスもSDGsを自分事としてとらえる貴重な機会となりました。今後も板橋区は絵本やSDGsに関連した取り組みを続けていきます。