2025年7月11日 トークイベント「ボローニャ報告ー日本の絵本のプロモーション」

このページの情報をXでポストできます
このページの情報をフェイスブックでシェアできます
このページの情報をラインでシェアできます

ページ番号4001987  更新日 2025年7月18日

印刷大きな文字で印刷

2024年より、国際交流基金とJBBY(日本国際児童図書評議会)は、ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェア(以下BCBF)で日本の絵本をプロモーションするための共同ブースを出展しています。7月11日にはこの取り組みの報告会として、関係する4名によるトークイベントを行いました。

まず当館館長の松岡から、この取り組みの前史としてBCBFにおいて日本の絵本がどのように紹介されてきたのかというお話をしました。1964年に始まったBCBFですが、その草創期から日本の出版社はBCBFで自社の児童書を紹介してきました。一方で、日本の絵本をまとめて紹介した機会としては、1994年に松岡が企画者としてかかわった「90年代の日本の絵本展」があります。これはBCBFのゲスト国の展示として大々的に開催され、大きな反響がありました。しかし2010年以降、BCBFで多くの国が発信力を高めていくなか、日本の絵本のプロモーションに力を入れる必要性を感じた松岡は、BCBF期間中にボローニャの町中やブックフェア会場で、展覧会やブースの出展などを度々企画してきました。そうした背景のなか、改めてコロナ禍明けに国際交流基金とJBBYが協力をして日本の児童書を紹介する企画が持ち上がり、2024年・2025年の2度にわたって「にほんのえほん」のブースが実現しました。
国際交流基金のご担当者である田村彩さんには、この取り組みの概要についてお話をいただきました。BCBFは、3月から4月にかけてのたった4日間のイベントですが、世界中の児童書関係者が集まり、情報や出会いにあふれています。そのような場所でブースを出展して活動する目標として、世界各地から集まる関係者に日本の絵本や児童書を知ってもらうことのほかに、東南アジア地域の児童書関係者とのネットワークづくりも挙げられました。田村さんは、写真とともに、ブース内での展示内容(絵本やポートフォリオ)をご紹介いただき、さらにブース内でのポートフォリオレビューやブックトーク、ブックフェア会場内での関連イベントなどの多岐にわたる取り組みがあったことを説明いただきました。いま振り返ると、ブースのデザインをされた柿木原政広さんがそこに込めたコンセプトが、すべて実現したとおっしゃっていたことが印象的です。
続いて、2024年と2025年のブース内で紹介された絵本のセレクションを手がけた絵本評論家の広松由希子さんにマイクをお渡ししました。これらの絵本の展示は、“近年刊行された絵本”や“長く読み継がれる読み物”といったカテゴリーのほか、2024年は独立系出版社の絵本、2025年は赤ちゃん絵本を特集しました。広松さんは、BCBFという場で海外の人に紹介すること、そして慌ただしく出入りする来場者たちの目を惹くことができるようなラインナップになるように選書をされたと言います。広松さんは、昨年も今年も、現地で特集展示の絵本についてトークイベントもされたので、今回はそのときのスライドをともに振り返りました。用意くださったたくさんの絵本を見せながら、縦書きと横書きがある日本の絵本の面白さや、日本における赤ちゃん絵本の歩みや特徴についてもお話くださいました。海外の絵本と日本を熟知し、しかもBCBFがどのような場所であるかをよくご存じの広松さんならではの、考え抜かれたセレクションであったことに改めて気づかされる機会となりました。
昨年と今年のブックフェアでは、これらの絵本の掲載されたパンフレットが配布されました。今回のトークイベントでも特別に2年分のパンフレットを参加者のみなさんにご用意しました。これらを編集したのは、編集者で国際出版のコーディネートを専門にする高野直子さんです。高野さんも広松さんや松岡同様に、長年にわたってBCBFに参加されています。高野さんは、2024年のブースで展示された日本の絵本が今年チェコで刊行されたという事例や、現在準備中の海外版についてご報告くださいました。そして、2025年のブースの新たな試みとしてポートフォリオ展示についてお話をいただきました。これは、ボローニャ展過去5年間の日本の入選者やJBBY会員の中から推薦されたイラストレーターたちのポートフォリオ約40冊を展示するというもので、期間中にはとても注目されました。さらにポートフォリオアワードを開催し、高野さん含めた3名の審査団によってこの中から1冊を選びました。受賞したあいざわふみさんは、今年初めてブックフェアを訪れていたので、アワード発表にも立ち会うことができました。高野さんは現地で海外のイラストレーター向けに、日本の出版社へのアプローチについても講演され、BCBFらしいイベントとなりました。
最後に、今年のBCBF会場で行われたイベント「アジアからの風」に触れました。現在、国際交流基金がASEAN諸国との連携に力を入れているということもあり、東南アジアの児童書関係者とのトークイベントが企画されました。世界の絵本に詳しい広松さんにとっても、登壇者を選ぶために、東南アジアの出版社や絵本を調査し、そのなかでBCBFに参加する人を確認するのは容易ではありませんでしたが、BCBF側もこの取り組みには大変興味を示し、協力をしてくれました。イベントでは田村さんが司会をして、シンガポール、ベトナム、マレーシア、タイの出版社の4名が各々の絵本を紹介しました。それぞれに広松さんがコメントをしたり質問をしたりして、大変有意義な会となりました。この交流は今後も展開がありそうです。

おしまいに、ブースで紹介した絵本が5月のウクライナでのブックフェアでも展示されたことを広松さんがお話してくださいました。その様子から、絵本は、子どもにとっても大人にとっても日常を取り戻させるものであり、また国を超えて人々をつなげてくれるものであることが、伝わってきました。
金曜日のイベントではありましたが、作り手や出版社の方もふくめて多くのみなさまにお越しいただき、関心の高さがうかがえました。なお、このプロジェクトは、登壇された4名のほかにも、ブックフェアとのコーディネート、ブースやパンフレットのデザイン、一部の書籍の選書など、多くの方々が関わって実現しました。このような「にほんのえほん」のプロジェクトからどんな進展があるのか今後が楽しみです。

7月11日のトークの様子1

7月11日のトークの様子2

7月11日のトークの様子3

7月11日のトークの様子4