2022年12月24日 トークイベント「イタリアのさわる絵本とそのうしろにあること」

このページの情報をXでポストできます
このページの情報をフェイスブックでシェアできます
このページの情報をラインでシェアできます

ページ番号4001733  更新日 2022年12月27日

印刷大きな文字で印刷

クリスマス・イブの12月24日には、「イタリアのさわる絵本とその後ろにあること」と題してトークイベントを開催しました。講師にはローマ在住の森泉文美氏をお招きし、バリアフリー絵本研究家の攪上久子氏が聞き手となりました。
森泉さんはボローニャ展のコーディネーターを務めるなど、当館の活動を長年にわたりサポートしてくれています。2020年のボローニャ展の際にご紹介した「イタリアのさわる絵本」の展示も、森泉さんと当館館長の松岡の調査をもとに実現したものでした。森泉さんは、その後もイタリアを中心にさわる絵本やその周辺の状況の調査を続けてきました。今回は来日に合わせて、イタリアの教育や美術といった背景とともに、同国におけるさわる絵本の特徴や現状についてお話を聞く機会となりました。

トークイベントでは、まず攪上さんからバリアフリー絵本がボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアを舞台に紹介されてきた歴史や、IBBYが選書するバリアフリー絵本の中でご覧になってきたイタリアの作品についてご紹介いただきながら、今回のトークイベントを開催するきっかけとなった思いをお話くださいました。

その後の森泉さんのお話は、なんと古代ギリシャのホメロスから始まりました。イタリア文化に深く根差した事象からひもといてゆく内容に、あっという間に参加者のみなさんも引き込まれていきました。19世紀にはじまる盲学校設立の経緯や点字の発明、そしてイタリアのインクルーシブ教育についても詳細に説明してくださいました。近年、日本でもイタリアのインクルーシブ教育は話題となりますが、この動きは1970年代から徐々に進み、1990年代には保育園から大学まですべての教育機関で実現できるように法律や制度が整備されていったそうです。インクルーシブ教育を支える補助教員の重要性や現在の課題も指摘されました。
イタリア各地にあった盲学校は、その後、視覚障がい者に向けて様々な活動を展開するセンターとして注目されるようになったところもあります。その中で、ボローニャのアンテロス美術館やローマのイタリア全国視覚障がい者教育機関連盟をご紹介くださいました。またアンコーナにあるオメロ美術館は、触る作品を展示するというユニークな活動で知られています。
一方で、イタリアの美術運動において触覚や本がどのようにとらえられてきたか、という視点でもトークは展開していきました。20世紀初頭の未来派は、視覚だけでなく五感を刺激する表現を目指し、その動きは広告や印刷物などを通して人々に広がっていきました。未来派の活動にも参加したデザイナーのブルーノ・ムナーリは、本の形をしたユニークな作品を多数発表しています。ムナーリはまた、触覚で楽しむ作品も作り続け、1970年代からは子どものワークショップにも取り入れられました。さらに、マリア・モンテッソーリの教育の中にも触覚を重視したものが見られます。
トークの終盤には、イタリアやフランスで開催されているさわる絵本のコンテストや、いくつかの絵本について見どころをお話いただきました。
イタリアならではの教育制度や美術の歴史をふまえながら、現在のイタリアのさわる絵本をとらえていくお話は、多様な関心や専門性をもった多くのみなさんにとっても興味深かったようです。

2時間のトークイベントの後、会場に並べられた多数のさわる絵本を、参加者のみなさんも体験していました。中には二人で楽しむ作品もあり、さわったりめくったりすることで驚きや発見があったようです。

このイベントには、視覚障がい者の方、イタリアの教育やデザインの専門家、編集者、イラストレーターなど様々な方々が参加してくださり、活発に情報交換もされていました。講師の森泉さん、攪上さん、参加者のみなさん、どうもありがとうございました。

トークイベント1

トークイベント2

さわる絵本1

さわる絵本2