2025年12月14日 戦争と子どもたち展 堀川理万子氏講演会

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ページ番号4002021  更新日 2025年12月16日

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開催中の「戦争と子どもたち展」に関連して、画家・絵本作家として活動されている堀川理万子さんによる講演会「『いま、日本は戦争をしている』で80年を振り返る」を開催しました。

堀川さんは、ご自身で作絵を手掛けた『海のアトリエ』(偕成社、2021年)をはじめ、絵本や児童書を数多く発表しています。2023年のブラチスラバ世界絵本原画展に選出されるなど、日本を代表する絵本作家のひとりでもあります。また、絵画作品による個展を開催するなど、幅広く活躍されています。
今年刊行された『いま、日本は戦争をしているー太平洋戦争のときの子どもたちー』(小峰書店)は、戦時中に子どもだった当事者17名にインタビューし、戦争中に見た景色や経験を絵と文章で紹介するものです。本展と同じく、戦時中の子どもたちを題材とした本書について、堀川さんにお話を伺いました。今回、100枚以上のスライドからなる発表資料も用意くださり、大変丁寧にお話してくださいました。

この日、会場には戦争体験者であり、本書でもインタビューされたふたりの男性が来場されていました。お一人は堀川さんのお父様です。お二方を紹介された上で、なぜ戦争体験者でない堀川さんが本書を書くことになったのか、その経緯についてお話くださいました。
きっかけは、2022年に開催された「絵と言葉のチカラ展」というコンテストへの応募とのことでした。戦争体験者であるお父様から繰り返し聞いていた戦争にまつわる話をもとに描いた絵(本書へも掲載)がグランプリを獲得し、その副賞として展覧会の開催も決まりました。そのとき、もう少しほかの人からもお話を聞いて、絵にしたいと思ったことを小峰書店の編集者に伝えたところ、これが出版の話へとつながっていったとのことでした。しかし出版の話が決まってから、その編集者に「沖縄戦や広島、長崎のこともとりあげないと」という話をされ、自分の周りの人たちからお話を聞いて制作をしようと考えていた堀川さんは、自分にはできないかもしれない、とも思ったそうです。

そのあと、本書に掲載されている17名の中から10名ほどについて、インタビューの流れや制作のなかで工夫したことを、取材時の写真や動画も見せながら詳しくお話してくださいました。
本書には、沖縄や広島、長崎、満州、樺太、北海道、東京、山梨など、さまざまな場所で子ども時代を過ごした人のエピソードが描かれています。最初にお話しされたのが沖縄でのインタビューについてでした。本書の企画が通って最初にインタビューに行ったのが沖縄だったそうで、大学時代の友人のお父様であった比嘉さんにお話を聞いたそうです。山の中を歩く比嘉さんの描くシーンでは、死体や木々の描き方など、さまざまな指摘をもらい、時には比嘉さんの目の前で直しながら描いていったとのことでした。今回は絵が変化していく過程も、画像とともに見せてくださいました。このように、他の方とも何度もやり取りをしながら制作をしていったそうです。ときには「絵にしないでほしい」と言われたエピソードもあったとのことでした。

また、地理的な状況なども地図やさまざまな資料を調べながら、絵に反映させていったとのことでした。広島で、路面電車の車掌さんをやっていた笹口さんとのお話では、切符を切る道具をJRよりお借りして、当時の切符のサイズに切った紙にはさみを入れる動作をしてもらうなど、堀川さんがいかに当時の姿を嘘なく描こうとしているかが伝わってくるエピソードもありました。また、本書の表紙を飾った鉄棒をする少女たちも、この笹口さんとのインタビューから描かれたものです。避難所となっていた保育園にあった鉄棒を見つけて遊んだというこのお話を聞いたとき、すごい状況のなかでも14歳の少女なのだ、ということを実感されたそうです。これは子どもの本質なのではと思って、表紙にしたそうです。
この本は3年ほどかけて制作されたことで、血を想起するために水彩の赤を使えなくなるなど、かなり心身にダメージを受けたとのことでした。いまは少しずつ心を修復している最中で、しばらくは明るいものを描いていきたいともお話をされていました。

今回の堀川さんのお話からは、たくさんの資料をもとに、真摯に制作をされたことが伝わってきました。また、本書には描かれていない、取材の裏側もお伺いすることができました。会場はみなさん真剣にお話を聞かれるだけでなく、目頭を押さえている方もおり、堀川さんの強い思いが感じられる講演会だったと思います。
最後にはサイン会にも応じてくださり、多くの方がご自身の思いをお話されていました。

堀川さん、このたびはご講演くださり、ありがとうございました。
ぜひ多くの方に『いま、日本は戦争をしている』が広がっていくことを願っています。

堀川さん

堀川さん