2024年7月2日 2024ボローニャ展オープン エレナ・パゾーリ氏講演会

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ページ番号4001888  更新日 2024年7月5日

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7月2日、2024イタリア・ボローニャ国際絵本原画展がオープンしました。梅雨の東京は曇り空でしたが、雨に降られることなく、初日を迎えることができました。展覧会では、今年も世界中から応募された多数の作品のなかから厳選された入選作品をご覧いただけます。また特別展示として、2023ボローニャ・SM出版賞を受賞したアンドレア・アンティノーリの新作絵本の原画全30点をご紹介しているほか、ボローニャ・ラガッツィ賞のスペシャルメンションを授与された絵本「死んだかいぞく」(下田昌克作絵、ポプラ社、2020年)の原画の一部も展示しています。さらに展示室では、入選作品のなかで出版された絵本や、ラガッツィ賞を受賞した絵本なども手に取ってご覧いただけます。

会場風景1

会場風景2


初日の7月2日には、オープン記念の講演会として、この展覧会をイタリアで主催しているボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアのディレクターである、エレナ・パゾーリさんにお越しいただきました。長年にわたりブックフェアにたずさわるエレナさんに、ボローニャ国際絵本原画展や、ボローニャのブックフェアについてお話をいただきました。通訳は、この展覧会のコーディネーターとして尽力くださっている森泉文美さんです。

講演会1

講演会2


ボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアは、児童書を専門にする国際的なブックフェアとして世界的にも有名です。今年で61回目を迎えました。講演会ではまず、ブックフェアの近年始まった取り組みとして、一般書をあつかう出版社をターゲットにした「Bologna Book Plus」や、テレビ・映画の権利を扱うライツセンター、コミックを紹介するコーナーなどをご紹介くださいました。
このようにボローニャのブックフェアは版権を売買するビジネスの場所ですが、一方で、たくさんの講演会や講座を企画し、重要な賞を発表し、イラストレーションや絵本の展覧会も開催するなど、ブックフェア設立当初から文化的な側面にとても力を入れています。世界中のブックフェアのなかでも、これほど文化に対して投資をしているブックフェアはほかにないであろうとエレナさんも自負しておられます。58回目となった「ボローニャ国際絵本原画展」は、その象徴とも言えるでしょう。講演会では、たくさんの文化的な取り組みについても具体的にお話くださいました。

たとえば、イラストレーターを育成するための企画は、ボローニャ展入選者やファイナリストを対象にしたものとして、「ボローニャSM出版賞」「アルス・イン・ファブラ奨学金」「ビジュアルアイデンティティ・ワークショップ」などがあるほか、ブックフェア会場の中には「イラストレーターズ・サバイバル・コーナー」が設けられ、様々な講座やワークショップ、ポートフォリオレビューなどが行われています。
また、ブックフェアでは12の賞を主催しており、ブックフェア会期中に華々しく授賞式が行われます。なかでも、出版された児童書に贈られるラガッツィ賞はとくに歴史が長く、著名な賞です。近年は、受賞作だけでなく、多数の応募作品の中から100冊が選ばれ、「BRAW Amazing Book Shelf」として会場内で手に取って閲覧できるコーナーが設けられています。
こうした数々のイベントが行われるボローニャのブックフェアですが、プロ向けの見本市であるため、一般の人や子どもたちは入場できません。そこで、ボローニャの町の中でも約1か月にわたり、ギャラリーや書店などで児童書に関する展覧会やイベントが展開されます。これは、ブックフェアとボローニャにあるアソシエーションが協力して行っています。
そして現在、ボローニャのブックフェアは、世界にも活動を広げています。上海ブックフェアの児童書部門を立ち上げたほか、「Bologna Grand Tour」として世界中のブックフェアに出展して、ボローニャのブックフェアをプロモーションを行いながら、展覧会や講座などボローニャのブックフェアのさまざまなコンテンツを展開しています。また、イタリアのイラストレーターを紹介する展覧会「Italian Excellence」を企画して、世界各地のイタリア文化会館で開催しています。
さらに、ボローニャのブックフェアは、コロナ禍にオンライン版ブックフェアを開催したことをきっかけに、デジタル・コンテンツにも非常に力を入れています。オンライン上の展覧会やユーチューブチャンネルなどもあり、国内外からたくさんのアクセスがあります。現在は、版権売買やイラストレーター向けのプラットフォームなどの開発も始めているそうです。
児童書に携わる人材育成にも積極的なブックフェアは、近年、ミラノの大学とともに児童書出版に向けたマスターコースを開設しました。

4日間のブックフェアだけでなく、町の中、オンライン上、そして世界中へと、ボローニャのブックフェアが広がっていっている様子を知ることができる講演会でした。とはいえ、講演会の中で話いただいたのはブックフェアのほんの一部。ボローニャのブックフェアは、ほんとうに大きなイベントです。時代のニーズや世界情勢にも敏感に反応しながら、やるべきことを見出し、実現していっているブックフェアの原動力の中心には、いつもエレナさんがいるのです。

エレナさんは、講演会の最後に「橋」という言葉とともに、IBBYイタリアとの結びつきや、国連との協働による世界人権宣言の朗読イベントなどについてもお話くださいました。児童書を通じて世界の架け橋としての役割も果たそうとする姿勢は、ボローニャのブックフェアの特徴でもあり、またエレナさんがもっとも力を入れているところなのではないでしょうか。エレナさんは2018年に「橋をかける」という分野でアメリカのエリック・カール美術館から表彰を受けました。この分野で評価されたことは、ブックフェアの仕事をしていてもっともうれしいことのひとつだったとおっしゃっていました。

今回の日本滞在中、エレナさんは「橋をかける」という言葉を何度も口にされました。児童書を通じて人と人、国と国の間をつないでゆく活動を続けるエレナさんの講演会は、改めて絵本がさまざまな可能性を秘めていることを教えてもらう機会となりました。

2024イタリア・ボローニャ国際絵本原画展は始まったばかり。
ブックフェアの息吹も感じながら、展覧会をお楽しみください。
8月12日(月・振休)までです。