2024年7月7日 トークイベント「さわって楽しむ作品づくり」

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ページ番号4001890  更新日 2024年7月10日

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2024ボローニャ展、最初の日曜日となった7月7日には、トークイベントとして「さわって楽しむ作品づくり イタリアにおけるワークショップ報告」を開催しました。登壇者は、齋藤名穂さん、(建築家、デザイナー)、のだよしこさん、(イラストレーター)、まえだよしゆきさん、(絵本作家、デザイナー)、森本康之さん(彫刻家、修復家)、山本茂康さん(デザイナー)、森泉文美さん(ボローニャ展コーディネーター)、松岡希代子(板橋区立美術館長)の7名です。

トークイベントでは、まずは当館館長の松岡からこのトークイベントをすることになった経緯をお話しました。きっかけは2019年にさかのぼります。「さわる絵本」についてイタリアで調査をしていた松岡が、偶然にイタリア全国視覚障がい者支援施設連盟のことを知り、そこで教材制作を担当しているピエトロ・ヴェッキアレッリさんに出会いました。ピエトロさんはイタリアでさわる絵本を制作し、アーティストたちとのコラボレーションにも積極的です。2020年にはピエトロさんのご協力により、2020ボローニャ展の特別展示として、さわる絵本を紹介をしました。そしてパンデミックが落ち着いた2023年夏、ピエトロさんを日本に招聘して、クリエイター向けのワークショップを開催しました。3日間でさわる絵本について学び、各自がオリジナルの絵本を制作するというハードな内容でしたが、参加者たちは大変熱心でレベルも高く、ピエトロさんもとっても感心していました。参加者たちはその後も自主的な勉強会やSNSでのつながりを続け、同年秋にイタリアで開催されたさわる絵本のコンクールにも挑戦した人たちもいました。(これについては、2023年12月に当館でトークイベントを開催しました)
そして2024年4月、ピエトロさんの新しい企画として、さわって楽しむ作品の展覧会を開催するにあたり、日本、イタリア、フランス、ベルギー、スペインのアーティストたちが集まって、それぞれにさわる作品を制作するワークショップが行われました。この展覧会は、イタリア全国を巡回するもので、壁に掛けられる70センチ×70センチのパネルがベースとなります。

トークイベントでは、日本から参加したアーティストたちのコーディネーターを引き受けてくれた森泉文美さんが、ワークショップや展覧会の概要についてお話をしてくださいました。ワークショップには総勢26名のアーティストが参加し、日本からはイタリア在住の3名(のださん、森本さんに加えて、彫刻家の工藤文隆さん)、日本在住の3名(齋藤さん、まえださん、山本さん)の計6名が参加しました。このうち、まえださんと山本さんは、2023年に当館で開催したピエトロさんのさわる絵本づくりのワークショップにも参加されました。ワークショップ会場となったのは、イタリアのウンブリア地方にあるトレヴィという小さな町にある古いパラッツォです。テラスからは美しい丘陵地帯を望むことができ、パラッツォの中には豪華な天井画なども残され、まるでおとぎ話の中のような環境です。参加者はこのパラッツォに滞在しながら制作にのぞみました。今回の作品のテーマは「木」です。ピエトロさんが日本で目にした盆栽からインスピレーションを受けたそうです。各アーティストたちは、事前にピエトロさんや木の専門家たちとミーティングを重ね、各自の作品の計画を練って準備をし、ワークショップは4月半ばの1週間をかけて行われました。近くの木工房が協力し、視覚障がいのあるスタッフや専門家がもいつも相談に乗ってくれるという環境が整えられました。また、作品を制作するだけでなく、連日、講演会や見学会、遠足なども企画され、制作しながら木について考えを深めたり、自然の中で木を見たり触ったりする機会もたくさんありました。最後にはこのパラッツォに完成した作品を飾って展覧会が行われ、視覚に障がいのある人も含め多くの人たちが訪れ、作品を触って楽しんだそうです。

トークイベント後半ではイタリアでのワークショップ参加者のうち5名が、どんな作品を作ったのか報告をしてくれました。彫刻家で修復家の森本さんは、長崎で被爆した柿の木に関するイタリアでのプロジェクトをテーマにしました。木工房での機械彫りの後、手作業によって、高さや質感にこだわって仕上げました。絵本作家ののださんはプラタナスの木を作り、フェルトで作った実をつけました。手作りの紙芝居を使って、家族でワークショップに参加した様子も含めてトレヴィでの日々を楽しくお話くださいました。デザイナーの山本さんは、ブルーノ・ムナーリをヒントに、木のモジュール性を伝える作品を作りました。鑑賞者は、枝分かれした部分を組み合わせて大きな木を完成させることができるものです。素材や色の違いによって四季を表現することもできます。デザイナーで絵本作家のまえださんは、木の根っこの存在も伝えたいと考え、地面の上下に伸びる木を表現しました。木の素材は、手触りのよさを重視して紙を撚ったものをチョイスしたそうです。齋藤名穂さんは、日本の美術館でも触覚を使った活動をたくさん行っています。今回は、折り畳んだ布を開いていって、古い梅の木の四季を表現する作品を作りました。制作中に得たさまざまな気付きにも言及され、さわる作品作りの面白さ、難しさも伝わってきました。日本からはもう一人、彫刻家の工藤さんが参加し、展覧会場の中央に設置するためのさわる彫刻を制作しました。

実際には、現地ではいつもと異なる環境や時間の制限、素材や加工の悩みなどにも直面したみなさんでしたが、ピエトロさんと相談したり、木の専門家や視覚障がいのあるスタッフからアドバイスを受けたりしながら制作を進め、さらに木工房の献身的な協力や、仲間同士の励ましにより作品を完成させ、ワークショップならではの制作となったそうです。ピエトロさんはじめ主催者たちの情熱と周到な準備により、各国のアーティストたちが集まってさわる作品の制作を行うという奇跡のようなワークショップが実現し、さわる展覧会が出来上がりました。この経験は、これからのみなさんの活動の糧となり、触覚の豊かさやインクルージョンの可能性をさらに広げていくきっかけとなりそうです。

トークイベントは1時間半ではおさまらず、休憩をはさんだ第二部として、山本さんが他の参加者たちのインタビューや映像も紹介してくれて、盛りだくさんのイベントとなりました。会場には資料としてさわれる資料も準備し、聴講者のみなさんも熱心に聞いたりさわったりしていました。

イベント風景1

イベント風景2


イベント風景3

イベント風景4

イベント風景5

イベント風景6