2024年11月16日 森泉文美さん講演会

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ページ番号4001919  更新日 2024年11月20日

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11月9日に開幕した「レオ・レオーニと仲間たち」展には連日多くのお客様にお越しいただいています。この展覧会は、当館で3度目になるレオ・レオーニ展ですが、いずれも当館館長の松岡とローマ在住の森泉文美さんの二人が協力して開催したもので す。森泉さんは当館の「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」のコーディネーターを長年務め、ドキュメンタリービデオの制作も手掛けてきました。また、ブルーノ・ムナーリ 展をはじめ多数の展覧会にご協力くださっています。

11月16日(土曜日)には森泉さんにお越しいただき、「レオ・レオーニと仲間たち」展に関する講演をいただきました。講演会のタイトルは、展覧会名と同じく「レオ・レオーニと仲間たち」。展覧会の企画の意図や展覧会では紹介しきれなかったことも含めて、レオが影響を受けたものや交流した人たちを、たっぷりご紹介いただきました。
講演は、「レオ・レオーニと仲間たち」という名称の説明からはじまりました。英語ではLeo Lionni and his Circle of Friendsとなるこのタイトルは、レオが初めて出版した絵本『あおくんときいろちゃん』の一場面に由来します。そこには、子どもたちが輪になって「リング・ア・リング・オ・ローゼス」という遊びをしている様子が描かれ、同時期にレオが手掛けていたブリュッセル万博のパビリオンに展示された写真との関連性が、レオの孫のアニー氏によって指摘されています。森泉さんは、このパビリオンについて詳しく解説されたうえで、絵本の該当場面を改めて見直し、子どもの人数や色には写真に見られる子どもたちとの類似性が読み取れるのではないかと指摘されました。森泉さんはヨーロッパとアメリカの歴史文化全般に非常に造詣が深く、今回も詳細な調査と鋭い洞察により展覧会のご準備をしてくださいました。講演会冒頭からもその一端をうかがうことができました。
続いて本展のコンセプトを固めるまでのこともお話くださいました。当初、森泉さんと松岡は、レオとブルーノ・ムナーリの二人に焦点を当てることを考えていました。 しかし調査を進めるなかで、より広範な人たちとのかかわりのなかから激動の20世紀 を生きたレオの活動を紹介する展覧会とすることになりました。
森泉さんの講演の本題は、レオの誕生時から始まりました。レオの家族や家業、両親の結婚のエピソードに至るまで、レオが幼少期を過ごした環境についての詳細な説明からは、まるで当時のことが目に浮かぶようでした。そして、本展でも触れてい る二人の叔父の美術コレクションについては、実際にレオが目にした作品を特定しながら、後のレオに与えた影響も含めて解説してくれました。
アムステルダムで生まれ育ち、ブリュッセル、アメリカで一時期を過ごしたレオは、イタリアのジェノヴァで高校生となります。それ以降、同年代の友人たちから大いに刺激を受け、政治、文学、映画などさまざまなことに興味を持ちます。また、生涯をともにすることになるドイツ製のイーゼルも購入し、画家になることを決意します。イタリア時代のレオについて森泉さんはとくに、陶芸の盛んなアルビソーラや、出版 広告文化の花開いたミラノについてレオとのかかわりに注目しながらお話くださいました。アルビソーラで未来派時代のレオが手掛けた油彩画を発見した経緯や、ミラノで発展した1930年代のグラフィックデザインや、同地のカフェにおける文化的なサークルについても言及され、戦前のイタリアにおけるレオの活動が紐解かれていきました。しかしファシズム政権により差別的な人種法が制定されたため、ユダヤ系であったレオは1939年にアメリカに亡命します。ヨーロッパ的なグラフィックデザインを身に着けたレオでしたが、アメリカでも頭角を現し、デザイナー、アートディレクターとして活躍をしました。森泉さんは雑誌「フォーチュン」での仕事に重点を置き、レオが手掛けた表紙やディレクションした記事について詳細にお話くださいました。レオは若いアーティストたちを誌面のイラストに登用し、彼らが才能を発揮できるよう励ましたといいます。森泉さんは当時の「フォーチュン」誌を読み込み、分析したうえで、さまざまなエピソードを披露され、本展では取り上げきれなかったレオの「仲間たち」を多数ご紹介くださいました。
森泉さんがご準備くださった写真や原稿はまだまだあったのですが、すでに講演会の時間を超過していたため、いくつかのスライドを飛ばし、最後に、1950年代のレオと若きバーバラ・チェイス・リボウとの出会いと、彼女の姿を彷彿とさせる油彩画作品を取り上げ、印象深いしめくくりとなりました。
森泉さんの長年にわたるレオ・レオーニ研究の中から、今回はえりすぐりの作品や作家についてお話をいただき、当時の様子やレオの人柄も想像することができたのではないでしょうか。2時間近くにおよぶ講演会は、非常に深く広い内容となり、熱心な参加者のみなさんとともに、レオの歩んだ道のりと仲間たちについて学ぶことのできる機会となりました。ありがとうございました。

講演会1

会場風景2