2024年7月15日 グスティさん・中津川さん対談
7月15日には、夏のアトリエの講師をつとめてくださったグスティさんと、美術家でありアートディレクターの中津川浩章さんとの対談を実施しました。お二人とも障害のある人たちとの様々な活動を行っており、今回はその活動や考えを聞く機会となりました。
この日もグスティさんは次男であるマルコと、奥さんのアンヌさんと一緒に来館されました。夏のアトリエや講演会と同じく、森泉文美さんが通訳をしてくださいました。
対談の前には、ダウン症のお子さんとそのご家族が来館され、グスティさんと中津川さんとの団体鑑賞が行われました。自己紹介のあと、マルコから遊びたい!という声があり、音楽をつかっての椅子取りゲームがはじまります。参加者の方々は、はじめは少し緊張していたようでしたが、体を動かしたことで、緊張も少しほぐれたよう様子でした。
その後、みんなで展示室に移動しました。作品のある空間に到着し、みんなで床に座ると、グスティさんは穏やかな声で物語はじめます。声色を使い分ける森泉さんの迫真の通訳も相まって、参加者のみならず、一般の来館者もじっと物語に聞き入っていました。さまざまな生きものが出てくるその物語は、展示室に飾られた作品と直接関わるものではありません。しかしながら、物語の世界に没入していくことで、参加者は不思議と作品を鑑賞する気持ちが整っていったようです。お話を終えたあとは、グスティさんと中津川さんが参加者に声かけをしながらの、自由鑑賞となりました。
対談では、美術館からお二人について簡単にご紹介させていただいたあと、それぞれの活動についてお話いただきました。(なお、対談が終わるまで、マルコはグスティさんと森泉さんの間に座っての参加となりました)
中津川さんは、2013年に当館で実施したグループ展「発信//板橋//2013 ギャップ・ダイナミクス」に参加いただいたこともある現代美術のアーティストです。大画面のドローイング・ペインティングなどを制作されており、国内外で展示を行っています。一方、長年障害のある人たちの表現活動をサポートする活動を行っており、メキシコをはじめとする海外の子どもたちと行ったワークショップや、福祉施設のアートディレクション、展覧会の企画など、その多岐にわたる活動を紹介してくださいました。
中津川さんは小田原で活動を行っている「アール・ド・ヴィーヴル」という認定NPO法人の理事でもあります。アール・ド・ヴィーヴルの立ち上げは、小田原にあるダウン症児の親の会「ひよこの会」からの連絡がきっかけだったそうです。はじめはダウン症児を育てる親子が交流する会だったものがだんだんと拡大していき、いまでは障害福祉事業所を開設し、アート活動を仕事にする活動を行っています。中津川さんは、こうした活動を地域に根付かせていくことで、彼らが街の中で生きていけるようになっていくとお話されました。
中津川さんのお話を受け「まるで魂の兄弟のようだ」と共感を口にしたグスティさんは、バルセロナで「Windown」というダウン症の人たちとアート活動をする協会を設立しており、毎週金曜日の夜に集まり活動を行っているそうです。そこでの目的はすばらしい作品をつくることではなく、いろんな人たちとアートで関係をつくることであるとお話されました。また、この協会を立ち上げて数年たってから来る人を限定するのではなく、絵を描きたい人ならだれでも来られる場所に、と考えるようになったそうです、
グスティさんはまた、障害のある人の行動はその周りにいる誰かが決めていると言及し、こうしたアート活動は自分で選択できるようと手助けすることを目的としており、本当の障害というのは自分自身が表現できないことであると語ってくれました。
その後も、障害のある人や子どもたちとのワークショップを行ってきた経験から、お二人の話は進んでいきます。彼らが描く絵は丁寧に分析していくとひとつずつすべてが異なっていること、そして言葉ではうまくコミュニケーションがとれない場合でも、絵を描くことがコミュニケーションになっていると中津川さんは話します。グスティさんもこうした人たちの作品は非常に個性豊かであり、彼らが自分たちで決められる状況をつくることを大切にしていると話してくださいました。
質疑応答の時間には、美術館でのインクルージョンの可能性についての質問がありました。中津川さんは他の美術館での活動を例に、障害のある人との鑑賞などは思いがけないことが起きるけれど、数を重ねることでなにが起きるがわかるようになると言い、活動を続けていくことの重要性をお話くださいました。
また、ダウン症のお子さんを持つご家族からの質問やご感想をいただく場面や、アンヌさんが回答する場面もありました。アンヌさん、そしてグスティさんが繰り返し語っていたのは、「何より大切なのは、マルコが楽しく、幸せであること」ということです。今回のイベントには、複数のダウン症のお子さんとそのご家族が参加されていましたが、多くの人がその言葉に深く頷かれていたのが印象的でした。
作家であるとともに、長年障害のある人とのアート活動に関わっているお二人。スペインと日本、そのメインフィールドは異なりますが、対談中、それぞれの言葉に頷きあい、お互いの活動に強く共感を寄せている様子が伝わってきました。
グスティさん、中津川さん、そして通訳の森泉さん、本当にありがとうございました。