2024年7月20日 イ・ホベクさん講演会

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ページ番号4001898  更新日 2024年7月24日

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2024ボローニャ展も中盤となりました。子どもたちはもう夏休みでしょうか。梅雨明けして、急に暑くなってきましたが、連日多くのお客様にお越しいただいています。

7月20日(土曜日)には、2024ボローニャ展の審査員のおひとりである、イ・ホベクさんにお越しいただき、講演会「イラストレーションにおける人間の技術と美学ーボローニャ展審査と今後の展望」を開催しました。イさんは韓国で絵本作家として数々の絵本を手掛けている一方で、ソウルで出版社Jaimimageを創業し、編集者としても活躍しています。2006年には同社から刊行された絵本「ふしぎなびん」がラガッツイ賞にノミネートされたこともあります。さらに2024年のボローニャ・チルドレンズ・ブックフェアの会期中には、市内の図書館サラボルサで世界各国の12の独立系出版社を紹介する展覧会が開催され、その中にJaimimage社が含まれていました。この展覧会は多くの来場者でにぎわい、大変注目を集めました。

2024年のボローニャ展の審査は、イタリアの編集者マルコ・ギデッリさん、ノルウェーのイラストレーターであるオイヴィン・トールシェーテルさん、中国で出版社を創業したホアン・シアオヤンさん、そして絵本作家と編集者のふたつの視点をもったイ・ホベクさんの4人がつとめました。板橋区立美術館での講演会では、イさんはボローニャ展の審査についてじっくりとお話くださいました。韓国語から日本語への通訳は、武蔵野美術大学や相模女子大学で教鞭をとる申明浩さんが務めてくださいました。申さんは絵本を専門にしておられます。

イさんは講演の冒頭で、審査の際にポイントとなった4つのテーマについて述べました。まず、テクニックです。近年はデジタル技術を取り入れた作品が多数ありますが、デジタルのみによる作品以外にも、手を使ったアナログな技法で描いたものに効果を付けたり編集したりするのにデジタルを使うというような作品も多く見られます。デジタルとアナログの技法をどのように組み合わせるのかという点が関心を集めたとおっしゃっていました。2つ目はストーリー。絵本のイラストレーションは上手い絵であるだけでなく、絵の中にストーリーを感じさせるものであるべきです。各応募作品の5つの場面にも、物語の流れがあるかどうかということが重視されました。3つ目は作品のテーマです。各イラストレーターがどんなことを作品に込めるかというのはさまざまですが、戦争や環境といった世界的に問題になっていることも絵本のテーマになります。こうしたことを取り上げる場合は、個人的な表現に偏ることなく多くの人が納得できるようにする必要がありますが、それでも、ありふれた表現に陥らず、作家本人が考えをしっかり持っていることが大切と述べました。最後に挙げたのはAIです。審査員4人ともイラストレーションや絵本におけるAI技術には関心があり、慎重に扱ったテーマだそうです。商業イラストレーションにおいてはすでにAIはうまく利用されていると言いますが、これからは子どもの本においてもAIはどんどん近しいものになるであろうし、ちゃんと考えなければならないとイさんは言います。思い返せば30年前にはデジタル技術の利用が話題となっていました。今ではデジタルを使った作品はほんとうにたくさんありますが、だからと言ってアナログの技法が意味を失うことは決してありません。ですから、現在AIが懸念されているけれど、それを人間がしっかり使いこなすことができるかどうかという点が重要であるとおっしゃいました。
続いて、9つの入選作品を取り上げてお話くださいました。日常に潜む重い問題を取り上げた作品、細かな描写を通して見る者に想像をさせる作品、ユーモアのある作品、ファインアートを思わせる作品、コミックの影響を感じさせる作品、伝統的な銅版画技法による作品...... ひとつひとつの作品にたいして評価のポイントを具体的に指摘してくださったので、審査会に参加しているような気分になるようなお話でした。
講演会の後半は、子どもの絵本に欠かせない動物の表現について、5枚の入選作品を見ながら、どんな表現の可能性があるのかお話くださいました。たしかにボローニャ展の入選作品のなかにもたくさんの動物が登場しますが、そのとらえ方はとても多様です。人間の子どもと動物が一緒に過ごしている様子を描いたり、自然の中にいる動物を描いたり。そのなかでも、なぜこの作品に魅力があるのかという点も丁寧にお話してくださいました。
最後には会場からの質問にも応じていただきました。審査のなかで意見の食い違いがなかったかという質問に対しては、展覧会として見せるためには多様な作品を入れる必要があることを審査前に4人で合意していたので、今回の審査では激しい議論になることはなく、意見が割れた場合には多数決をとったということも教えてくださいました。

終始優しい語り口のイ・ホベクさんですが、1つ1つの作品に対する評価のポイントは大変具体的で、ご自身の揺るぎないお考えや審美眼をもって審査に臨まれた様子が想像できる講演会でした。イラストレーターの方々にとっては、イさんのお話から学ぶこともたくさんあったのではないでしょうか。
2025年のボローニャ展の応募受付はもう始まっています。来年のボローニャ展も、いまから楽しみです。

イベント風景1

イベント風景2