2024年11月10日 レナード・マーカスさん講演会
「レオ・レオーニと仲間たち展」の開幕に合わせて、アメリカ児童文学研究の第一人者であり、展覧会の企画などもされているレナード・マーカスさんが来日されました。マーカスさんは、アメリカにおいて初となったレオの大規模な回顧展(ノーマン・ロックウェル美術館、2023-2024年)の共同企画者であり、レオの令孫アニー・レオーニ氏とも親しくされています。
オープン2日目の11月10日(日曜日)にはマーカスさんの講演会を開催しました。「レオ・レオーニ:根っこと枝」と題して、レオの絵本を生み出したもの(根っこ)、そしてレオの絵本に影響を受けて生まれたもの(枝)について、じっくりとお話をいただきました。通訳は、佐藤志緒さんが務めてくださいました。
前半の「根っこ」についてのお話は、レオの幼少期から。オペラ歌手の母、建築家の叔父、進歩的な教育を行っていた小学校、美術館でのデッザンの修練、自室でのテラリウムづくり……。レオは自伝においても幼い頃のさまざまなエピソードを書き残していますが、その芸術にめぐまれた環境には驚かされます。なによりも、父方の大叔父と母方の叔父は著名な美術コレクターで、彼らの所有する同時代の前衛的な絵画に親しんだ経験は、少年レオの記憶に深く刻まれました。マーカスさんは、自伝の言葉を引用しながら、レオがそれらの作品についてどのような感想を持ったのか説明してくださいました。レオの自室の前にかかっていたシャガールの絵は、後に自身が作り出すことになるさまざまな物語の「故郷」となったと回想しています。また、アンリ・ル・フォーコニエの作品に対する批評的な態度からは、幼いレオが美術に対して非常に鋭い洞察力を持っていたことが分かるとマーカスさんは述べていました。二人の叔父のコレクションについては、「レオ・レオーニと仲間たち展」の第1章でも触れています。
そして、青年期以降のレオが、同時代の美術動向から受けた影響についても指摘されました。たとえば、20世紀初期からアーティストたちが用いるようになった「コラージュ」技法。レオも1930年代にミラノでデザイナーとして活動し始めた当時からフォトコラージュの技法を試みました。そして、その数十年後から始まる絵本づくりのなかにおいても、レオはコラージュ技法を積極的に用います。戦後、有名なアーティストたちがレオと同じく絵本にコラージュを使ったことや、『あおくんときいろちゃん』の手でちぎった形と抽象性についてもお話されました。さらに、未来派をはじめ20世紀前半の前衛アーティストたちは文字の表現にも革命をもたらしました。マーカスさんによると、グラフィックデザイナーであったレオは文字については厳格にレイアウトし、彼らのような試みはしていいません。しかし「フォーチュン」誌の表紙の文字によるニューヨークの表現や、文字が主人公の絵本『あいうえおのき』に込められたメッセージを例に、レオ作品の特徴を指摘されました。
講演会の後半は、レオの絵本の「枝」に移っていきました。まずは、レオから大きな影響を受けたアーティストとして、エリック・カールの絵本づくりに言及されました。この二人の出会いについては本展でも紹介しています。マーカスさんはレオとカールの絵本の相違点や共通点、またカールのほかにもレオの絵本からインスピレーションを受けたアーティストたちについても述べ、レオの絵本が後の世代に与えたインパクトが伝わってきました。
最後には、精神分析医ブルーノ・ベッテルハイムによる批評や、アメリカの幼稚園で行われたレオの絵本を用いた教育プログラムにも具体的に触れ、レオの絵本が読み手の子どもたちにとってどのようなものなのか、どのようなテーマが読み取れるのか、といったことについてもお話くださいました。
マーカスさんは会場からの質問にも丁寧に応じてくださり、レオの絵本の深い「根っこ」と、そこから広がっていった「枝」を、さまざまな視点から考えることのできる講演会となりました。マーカスさん、ありがとうございました。