2024年11月23日 広松由希子さん、松岡希代子対談「極私的レオーニ絵本論」

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ページ番号4001924  更新日 2024年12月1日

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11月23日(土曜日)には、絵本評論家の広松由希子さんと、当館館長である松岡による対談「極私的レオーニ絵本論」が開催されました。四半世紀にわたって一緒に絵本の仕事をしてきたふたりならではの視点で、レオ・レオーニの絵本について語り合いました。
1996年に当館で開催された「レオ・レオーニ展」以降、長くレオ・レオーニと関わってきた松岡に対し、広松さんにとってレオーニの絵本は触ってはいけない聖域であるように感じており、自分が子ども時代に触れたり、家族とともに読んだりと「極私的」な付き合いをしていたとのこと。今回の対談に際し、改めてレオーニの絵本を一気に読んだことで、自分のイメージとは随分と違うことに気づかされたとのことでした。

レオーニが絵と文章をともに扱った物語絵本は27冊あり、そのすべてが日本で翻訳・出版されています(ボードブックや別の人が文章を書いたものは除く)。まずは、それぞれにとってのレオーニ絵本との出会いについて話しました。松岡は子どもの頃にはあまり触れておらず、中学校の頃に『あおくんときいろちゃん』と出会ったのが最初とのこと。対して、『あおくんときいろちゃん』は広松さんのお母さまのお気に入りの絵本だったそうで、広松さんが物心ついたときには『あおくんときいろちゃん』が身近にあったそうです。
この流れで、広松さんは『あおくんときいろちゃん』を朗読してくださいました。レオーニにとってはじめて制作した絵本であり、抽象表現で構成されたエポックメイキングな絵本でもあります。シンプルなストーリーですが面白く、読むたびに発見があったと広松さんは言います。1959年にアメリカで出版された本作は、1967年には至光社で出版されています。他国で出版されたものと比べると、日本のものは印刷もよく、見返しを含めオリジナルに近いものとなっています。
本作は、グラフィックデザインの世界にいたレオーニが、絵本に入ってくる一歩目となるものでした。抽象的な色やかたちだけでどう表すかというのは、それまでのレオーニの仕事が生かされたものであると松岡は言います。また、レオーニは1910年生まれであり、本作は49歳のときに出版されています。1910年生まれというのは、日本でいうと赤羽末吉と同い年であると広松さんは指摘します。赤羽も1961年に最初の絵本「かさじぞう」を出版しています。

この『あおくんときいろちゃん』の話から、レオーニの絵本のほとんど(2冊を除くすべて)を翻訳しており、先日亡くなられたばかりの詩人・谷川俊太郎さんについての話になりました。もともと絵本に関心があったという谷川さんは、『あおくんときいろちゃん』との出会いをきっかけに、絵本の道へと進んでいったというエピソードがあるそうです。
日本におけるレオーニの絵本の多くは、好学社が出版しています。1969年に『スイミー』『せかいいちおおきなうち』『アレクサンダとぜんまいねずみ』が出版されており、その後もオリジナルの出版順と異なる順番で翻訳・出版されていきます。
谷川さんが、レオーニの絵本で一番好きだと答えているのは『ひとあしひとあし』で、これはレオーニが2冊目に出版したものです。広松さんもこの作品がお好きだそうで、こちらも朗読してくださいました。画面や構図が巧みであり、しゃくとり虫の小ささが印象的です。(本作の原画は、今回展示されていません)フロッタージュやコラージュ技法が使われています。

その後は、レオーニの絵本を出版順に見ていきました。『はまべにはいしがいっぱい』は、鉛筆細密画による絵本です。小さなころから、本物を見ずに絵を描く訓練を行っていたレオーニ。たくさんの石が出ていますが、実は石を一個も見ずに描いた作品であり、本物のようで完全なフィクションであると松岡は語ります。
小学校の国語の教科書にも使われており、日本ではよく知られている『スイミー』。みんなで力を合わせてやればできる! というチームワークを表現した絵本といわれることが多い作品ですが、実際にはスイミーがひとりで海の中をまわり、たくさんの美しいものと出会うシーンに最もページが割かれていると指摘します。松岡は、この作品はリーダーシップを表現した物語であり、さまざまなものを見てきたスイミーが仲間たちの「目」になる、ということがポイントなのではと語ります。本展では、1996年に撮影されたレオーニの映像を流していますが、そこでレオーニは「この黒い魚(=スイミー)はアーティストみたいだと思わない?」と子どもたちに語りかけており、スイミーにはレオーニ自身が投影されていることを見て取ることができます。他の絵本の多くにおいてもそうであり、例えば『フレデリック』もレオーニ本人が投影されている絵本のひとつであると、おふたりは語ります。この絵本の見返し部門には、絵本の主人公であり詩人のフレデリックのサインが一面に印刷されています。

この詩人の流れから、話はふたたび谷川さんに戻ります。1996年に松岡が担当した「レオ・レオーニ展」のカタログには、谷川さんによる詩「ことばがつまずくとき」が寄稿されています。当時、同展にあわせて、谷川さんと工作舎の西岡文彦さんとの対談も行われました。この対談では、谷川さんは自身の詩を朗読しており、今回特別にその音源も皆様に聞いていただきました。
この対談のなかで谷川さんは、多様性や折衷性がレオーニの絵本をよむ上でのキーワードであると語っています。レオーニさんの作品のなかには、最後までストーリーラインがはっきりとしなかったり、不思議な話があるのですが、松岡はこの言葉を聞き、レオーニ作品の不可解さみたいなものを考えるきっかけとなったと言います。
例えば、『シオドアとものいうきのこ』や『みどりのしっぽのねずみ』を取り上げ、そのストーリーの不可思議さに言及しました。これらの絵本の時期は1970年代、ちょうどレオーニが「平行植物」の制作に没頭している時期のものであり、虚実を行った来たりするような、少し癖のある絵本が多くみられるとのことです。終わりを読者に求める「ポストモダン絵本」は1980年代より増えていきますが、そうしたものをいち早く取り入れた例だったのかもしれないと、ふたりは語ります。

一冊だけでもまだまだたくさんのことが語れるおふたりでしたが、せっかくなら絵本を一通り紹介したいとのことで、残りの絵本も足早に紹介していきます。簡単にどんな絵本かを紹介し、印象的なところや、レオーニ本人とその絵本の関係性について、ふたりが掛け合いながら語ってくれました。
最後の絵本『びっくりたまご』まで駆け足で紹介し終わったあと、レオーニは絵本のなかで説明をしているようで、読み手(子ども)を信頼しており、説明しすぎないことが大切であると言っていると、松岡は話します。広松さんはレオーニの絵本を通して見ていくことで、とても絵本作りを楽しんでいる感じがしたと語りました。また、日本語版においてはその訳語にも自由さがあるとして、谷川さんの言葉のすばらしさについても、改めて指摘されました。今回、何作か文章を読み上げてくださいましたが、それを聞くことで、文章についても今一度読んでみようと思った方も多かったのではないでしょうか。最後に、日本は世界からみても有数のレオーニ絵本が出版され、受け入れられ、愛されている国であると語り、対談は締めくくられました。

広松さん、松岡ともに、一冊ごとに語り切れないほど話したいことがたくさんあり、時間を超過しての開催となりましたが、参加者のみなさんは最後まで真剣にお話を聞かれていました。長年絵本に携わってきたふたりだからこその、濃い対談だったように思います。素敵なお話をありがとうございました!

「レオ・レオーニと仲間たち」展は、5章構成のうち1章で絵本を取り上げています。原画を展示するとともに、絵本コーナーも設けています。多種多様な技法を用い、物語を描いたレオーニの絵本ですが、読んだことのないタイトルがある方も多いのではないでしょうか。本展が、新たなレオーニ絵本との出会いの場となりましたら嬉しいです。

対談1

対談2

対談3