2024年9月7日 シュルレアリスムとアブストラクト・アート 講演会
国立アートリサーチセンター 主任研究員の谷口英理さんに「1930年代日本の「前衛」地図」と題してご講演をお願いしました。
谷口さんは今回のご発表の中で1930年代に制作された作品を同時代の印刷物、写真、映画などのメディアとの関係から読み解かれました。
震災、復興の時代を経て、1929年の第16回二科展で古賀春江、東郷青児、阿部金剛らが新傾向の作品を発表を行ったことが1930年代の前衛の幕開けとなります。
板橋区立美術館では今年3月から4月にかけて行った「シュルレアリスムと日本」展でご紹介した古賀春江らの作品は当時の批評家により「シュルレアリスム」だと指摘されていますが、一方、古賀の《海》や《鳥籠》に描かれた潜水艦、工場、機械部品のようなモチーフなどからそれらの作品は「機械主義」とも言われました。
谷口さんは、その中でも古賀は、写真・映画・印刷物等の機械的なメディアテクノロジーの原理を絵画にとりこんだり、マスメディアがばらまく既成イメージを流用したりと、当時成立した新たなメディア状況を前提とした表現を行っており、それは、1930年前後に起きた「前衛」の転換を示す事例として重要な実践だったと言えるとご指摘されました。
時代が進み、1937年前後には瑛九による写真技術を応用した、美術家による前衛写真の先駆けともいえるような作品、長谷川三郎による転写を使った作品などが登場します。
彼らの作品には写真、映画の影響が大きいことを1939年の瀧口修造による小論「影響について」を引用しながらご説明いただきました。
西洋から持ち込まれた新傾向の美術について、西洋との比較はよく行われるものの、同時代のメディアとの比較によってより幅広く視覚芸術について議論ができそうです。新たな視点でお話しいただき、本当にありがとうございました。
最後に谷口さんより、国立アートリサーチセンターで携わられている全国美術館収蔵品サーチ「SHŪZŌ」についてもご紹介いただきました。
作家名を入れるだけでその作家の作品を全国のどこの美術館が所蔵しているのか、横断検索ができます。
1時間30分にわたる熱いお話でした。
谷口さん、ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。
(参加者58名)